嘘みたいな本当の話

 泣いた、笑った、驚いた!日本中から届いた149の実話たち。日本版ナショナル・ストーリー・プロジェクト「嘘みたいな本当の話」を読みました。選者は高橋源一郎さんと内田樹さんです。
 今や料理は激辛、テレビは超ビックリ、の世の中なんですが、この本の話は弱辛、少しだけびっくりの純和風味。それがかえって、私たちの生の生活感を醸し出してくれます。その中から、「笑った」お話を一つご紹介します。

芦屋夫人

 病院に行き、「座薬」を処方された芦屋の奥様がいた。

 薬が効かないので再度病院へ行き、医師に訴えた。

 「いただいたお薬を飲んでも、全然効きませんの」

 「えっ!飲んだんですか?」

 「ええ、きちんと正座していただきました」

 夫人は高貴な微笑をたたえてそう言った。

 何十年も前の話である。

                 兵庫県 山本 明

 この本は、アメリカ版『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』に影響を受け、その日本版を作ろうとしてできたそうです。そのアメリカ版が出たのは2001年の9月13日。つまりあの、『9.11』の二日後でした。日本版が出たのは2011年6月26日、『3.11』からそう遠くない日でした。

 編集後記ではこのような話が。
(文中の「柴田」というのは対談者の柴田元幸さん)

 いずれにせよ、本書は、「個人的な体験」を集めた本です。震災、原発事故という大きな出来事があって、誰もがそれまでとまったく同じ日常は送れなくなっている最中に、こうした「誰かの身に起きた、小さな出来事」というのを読者はどこまで受け止めてくれるでしょうか。

 内田 これって、日本人にとって、ある種普遍的な物語群だから、こういうときこそむしろ読んでホットするんじゃないかな。僕は読んでて、心が静まったもの。
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 内田 そうですよね。どんな事件が起きたときにも、あらゆる個人はそれぞれの現実を生きている。あんまり大きい事件があると、そのときにはそのことしかなかったかのように思ってしまうんだけど、その裏には人の数だけ日常がある。「エルビスが死んだ」というのはまさに、ある世代にとっては驚天動地の大事件なんだけども、それでも"life goes on"(人生は続いていくもの)だし、それとは別の、各人の多様な現実が同時に存在している。
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 柴田 ・・・オースター(アメリカ版制作者)は、ああいう大事件(9.11)のあと、自分たちの住む国の在り方について誰もがもう一度考え直すことを強いられているときに、本のプロモーションのために全国の書店を回った。そこでたくさんの、その地域地域の投稿者と会い、この本がもともと「自分たちが何者であって、何を標榜し、何を信じているか」ということを考えるための大きな企てであったことを再確認したと。・・・「侵略と拡張を原理とするナショナリズムとは違う、もうひとつのナショナルなものが聞こえたんだ」・・・

 いわゆる文学作品が「クラシック」なら、この本は「民謡」か「歌謡曲」(少し古いかな・・)にたとえられるかもしれません。

参考(内田樹(たつる)さんのお話を引用しているブログです)
人間の香りがする会社
パソコンと脱原発