久しぶりに茨木のり子さん

 茨木のり子さんの詩はどれを読んでも心にひびきます。書かれた年代によって硬軟のぐあいが異なるのも、また魅力です。

 私は最近うれしい発見をしました。それは、良い作品を書き写しているときにはとても「爽やかな気分」になれるということです。

 水上勉さんも書き写しの効用について語っています。彼は向田邦子さんを直木賞に強く推薦した方とのことですが、彼女の短編集のあとがきに、こんなことを書いています。

 「若い読者で、短編を勉強したい方があるなら、この『思い出トランプ』の一、二編を写してみられるといい。手ごろの枚数だ。わたしのいっていることがよく理解されるはずだ」

 ということで本日は、茨木のり子さん、彼女が四十五歳以前に書いた詩から一編書き写しさせていただきます。(内容からして四十五歳に限りなく近い歳で書かれた詩と思われますが)

茨木のり子 未刊詩編より

 伝説

 青春が美しい というのは
 伝説である
 からだは日々にみずみずしく増殖するのに
 こころはひどい囚われびと 木偶の坊
 青春はみにくく歪み へまだらけ
 ちぎっては投げ ちぎっては投げ
 どれが自分かわからない
 残酷で 恥多い季節 
 そこを通ってきた私にはよく見える

 青春は
 自分を探しに出る旅の 長い旅の
 靴ひも結ぶ 暗い未明のおののきだ

 ようやくこころが自在さを得る頃には
 からだは がくりと 衰えてくる
 人生の秤はいやになるほど
 よくバランスがとれている
 失ったものに人々は敏感だから
 思わず知らず叫んでしまう
 <青か春は 美しかりし!> と

 実に、実に、共感できる年代となりました。まさにこのとおりです!
 「こころが自在さを得る頃には からだは がくりと 衰えてくる」

 でも、この詩は勇気を与えてくれます。心は今からこそ「青春」だ、ということですから。

 人生今や八十五年、明治時代は六十年、明治の年齢に換算すると、六十歳は四十二歳、夏目漱石が小説を書き始めたのもこれくらいの歳からです。私たちの青春は還暦から始まる!

参考(茨木のり子さんの詩を引用してあるブログです)
 人生の季節
 倚りかからず
 ロートル・ネット・シンドローム
 「鍵」を探し続ける日々
 年々かたくなる、からだと心
 ふと心をうたれた詩