ボス猿の戦い

 久しぶりに『思い出アルバム』をめくってみました。あ、そういえばこんなこともあったな〜と、意識はしばし50年近く前の遊び場へと飛んでいきました。春の薫風を気持ちよく受けながら。
 飛んだ先は、昭和30年代中頃。腕白どもの遊び場のひとつ、家の裏にある畑の一画、季節はたぶん秋のよう。。。春の初めかも?

 そこには、子供たちが群れています。みんなで何かを観戦しているようです。

 す〜っと、私は空から下りてみました。


ボス猿の戦い


 その時、私はたぶん小学四年生か五年生だった。私が仕えたガキ大将は三人いた。一番年長の「ノブオちゃん」は別格で、つぎの二人「ひろちゃん」と「そうちゃん」はけっこう仲が悪かった。


 「ひろちゃん」が「そうちゃん」よりひとつだけ年上だったが、そうちゃんはそんなことは関係ない。そうちゃんが「コロッケ、ひろっけ」と揶揄すれば、ひろちゃんは「そういずのノータリン」とやり返す。(「そういち」がなまって「そういず」)毎日、会えばそんな具合だったが、それでもたまには「缶蹴り」などを一緒にしたものだ。


 あ、そうそう、「缶蹴り」にはこんな思い出もある。「ガキ大将の失敗」の舞台となったあの酒問屋の広い敷地、そこでみんなで「缶蹴り」をしていた。「缶蹴り」とは、地面に置いた空き缶を助走を付けて思い切り蹴る。鬼がその缶を拾ってくるまでに、他のみんなは隠れるのだ。後は「かくれんぼ」と同じ。だから、遠くに蹴れば蹴るほど隠れるのに有利なのだ。


 さて、そのとき蹴ったのは「そうちゃん」。ところが口も元気いいが足も負けずに元気のいい「そうちゃん」。蹴った缶は加速してビュ〜ンと水平に飛んでいった。その缶が、こちらも同じ名前の、もう一人の「そうちゃん」の眉間に命中したのだ。(サッカーだったらナイスヘディングといったところだが・・・)


 血だらけになった顔を今でも思い出す。実はこの缶が当たった「そうちゃん」はこの貴重な遊び場である酒問屋の息子だった。その後、蹴った方のそうちゃんの父上がやってきて「うちの『そういず』はほんとに力ありあまってて・・・申し訳ありません・・・」と、ご家族へ謝っていたこともおぼろげながら記憶にある。それからしばらくは、みんな、この屋敷への出入り禁止となってしまった。やれやれ・・・


 さて、舞台を畑に戻そう。ここは畑といっても野菜を植えてはいない。何があるかといえば、「サイロ」と「だらつぼ」と狭い草地があるのだ。「だらつぼ」と聞いて懐かしく思う人も多いだろう。それは「肥やしだめ」の広い穴のことだ。小さい頃は、誰かが時々この「だらつぼ」に落ちたものだ。深さはたぶん三十〜五十センチくらいだったかと思う。おぼれこそしないが、その悲惨さは想像を絶するものだった。


 ここの狭い草地で、「ひろちゃん」と「そうちゃん」は対峙していた。その周りを悪童どもが取り囲んでいた。私の姿も見える。まるで西部劇の決闘のようだ。何をしていたかというと・・・二人は「ガキ大将」同士で「度胸比べ」をしていたのだ。


 どんなやり方で?それが・・・なんと、あの頃大流行の危険な爆竹「2B弾」を使って。「2B弾」とは知る人ぞ知る、少年日本軍の秘密兵器なのだ。西部劇のマッチのように、マッチ箱のやすりや壁に「2B弾」の発火部をこすりつけると、「シューー」としばらく煙を出してから「バ=ン!」と爆発するのだ!その破壊力はけっこう衝撃的で、これをネズミや蛙の口に入れて爆発させる遊びも当時流行ったものだった。もちろん、数年後には製造が禁止された。それほど魅力的な破壊力を持つ秘密兵器であった。


 彼ら二人は、なんとその「2B弾」でキャッチボールをしていたのだ!どちらが最後までそれを受け止められるかで度胸合戦をしていたのだった。この戦いには度胸だけでなく、キャッチングの能力も必要だった。その光景は、まるで猿山の「ボス猿の戦い」そのものであった。結末がどうなったかは忘れてしまった。


 二人はこんなふうに喧嘩をよくしていたが、とても似ていることもあった。二人とも、姉との二人兄弟で、姉は彼らよりももっとおっかなかったということである。私は、どちらの家でもそのすさまじい兄弟げんかを目撃した。ひろちゃんの姉は大きなほうきを振りかざしながら「くそヒロス!(ひろしのなまったもの)」と追いかければ、ひろちゃんは裸足で外へ逃げていく。「フミコババー!」と叫んで。そうちゃんの家では格闘技だった。姉とそうちゃんがふたり一緒に階段からゴロゴロ転げ落ちてきたことを覚えている。


 そして、もうひとつとても共通していることがある。もう老年に入る寸前の彼ら(私も)だが、あのはでな喧嘩をした姉と弟は、信じられないくらい仲良しなのだ。どちらも遠く離れた場所に住んでいるが、人生の悩みをあれこれ姉に相談しているらしい・・・そんな話を、時々土手であったりするときに何度も聞いたものだ。

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