おだやかなお彼岸

 彼岸の入り日だった昨日はおだやかな、しかし花粉飛び散る春の空でした。くしゃみ鼻水涙目にもめげず、老父と一緒に墓参りをしてきました。

『詩集ノボノボ』より

おだやかなお彼岸

 お彼岸の入り日は快晴だった

 墓地は色とりどりに お彼岸の花で満ち

 まるで生気を感じるような 大賑わい


 子どもからお年寄りまでのユニットが

 彼岸にそのつど結成されて

 一座が車に乗ってやってくる

 
 ひとつしかない水場は大混雑

 桶やバケツに水を汲み

 雑巾で墓石を丁寧にふきあげる

 ご先祖様のお背中を

 やさしく 流してあげるよに

 
 お茶をあげ お菓子を供えて

 線香をたて 手を合わす

 そして心で あるいは声に出し

 ご先祖様に話しかける

 見守ってくれてありがとう

 そして ちょっぴりのお願いを


 目をつむり 手を合わせれば

 閉じた目の前に 現れる面影 

 懐かしき親や祖父母たち

 あるいは 旅の出発を急ぎ過ぎた家族たち


 私の場合は この墓にただ一人眠る母の

 とても懐かしき おだやかな顔

 目を開けたとき ふと感じる安心感

 なにか 責任を果たし終えたような


 さて カラスが待ち遠しそうだ

 墓のまわりを何度も旋回し

 はやく行け、はやく帰れと せかしている

 そうはいくかい カラス天狗め

 供えたお菓子を 父と私が無理して食べる


 このあと 父が一緒に行こうと誘う

 四十年前に亡くなった 祖母の墓参り

 教員だった父は 米寿を超えて

 金曜日 瑞宝なんとか章を授与された

 その報告もしたいらしい


 大病やら手術やらを何度も繰り返し

 まさかこの父が ここまで長生きするとは

 私も家族も だれも思っていなかった

 ところがだ どんな大病をしたときも

 本人だけは 考えたこともなかったらしい

 あの世への宇宙旅行

 
 今でも なんとか元気に独り暮らし

 本人は いよいよその気らしい

 よし、百近くまで行ってみようかと

 
 墓参りのお付き合いをしながら

 つくづく思う

 あ〜 俺も欲しかったな〜

 父のこの遺伝子が

 楽天的で おだやかで 

 一人ぼっちを苦にしない つよい気持ち


 祖母の墓で手を合わせながら

 ふと思いだした

 そういえば 父のお袋も

 似たところがあったな〜と

 →ノボ村長の「詩集ノボノボ」

 →ノボ村長の「思い出アルバム」