セルフビルドな人たち

 私の畑師匠でもあるカウンターの姉さんにいつもこう言ってしまいます。「マスターの爪の垢、メニューに加えて!」と。私もそのバイタリティーと技にあやかりたくて。
 自転車帰りにたまに寄る、私が住むど田舎のワンショットバー。

 この店のカウンターには私の畑師匠お姉さんがいます。


(カウンターの板まで、何から何までセルフビルド!)

  →とっておきの畑師匠

 先日寄ったら、だだっぴろい駐車場になにやら木の杭がたくさん打ち込まれ、マスターはじめ高校生のあんちゃん、店の非番のねえちゃん、レゲエ歌手風の若者たちがみなで大工工事をしておりました。

 自転車に乗ったまんまの私とマスターの会話がはじまりました。


(一番高い所で作業している人がマスターです)

 「マスター、何してんの?今度は」

 「ボードの練習場作ってんですよ。えらく長いやつですよ。何カ所も波のようにカーブつけてね」

 「え〜〜、丸くカーブつけるって難しいでしょう?全部自分たちでつくんの?」

 「ちょいとコツがいりますけどね。得意なんすよ」

 会話の途中に、商店会のおっさんが通りかかり、「今度、ここで盆踊りさせてくれっちゃ」

 「いいっすよ。ここビアガーデンにもしますから」と、マスターも即うけおう調子の良さ。

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 若干32才のマスター、そのバイタリティーにほんと私、頭が下がります。。。

 店の畑師匠のお姉さんに聞けば、マスターは中学生時代から大工仕事をしていたらしい。

 その工事とは「ホームバー」だったそうです。

 「一体誰が使うの?」と聞けば「自分たちじゃないですかね?」という答え

 あれま〜〜〜

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 このマスター、高校中退してアメリカにしばらく住み、それから地元の電気工事店につとめました。

 数年つとめた後、自分で「うどん店」を出しました(というより作りました)

 今では別な方が居酒屋として使ってますが、なかなか趣のある造作です。

 そのうどん屋の隣に、今度は若者向け「居酒屋」を出しました(というよりまたも作りました)

 この店が大ヒット!

 メニューの斬新さ、その量、部屋の配置と雰囲気、これがど田舎にしてはぬきんでています。

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 そうしたら今度は、客から二次会する店がさっぱりない、と聞かされ、私がたまに行くカラオケルーム併設「ワンショットバー」をつくりました

 居酒屋勤務の従業員が仕事が終わってからみんなでお手伝いし、完全セルフビルドしたんですね〜〜。

 ですから、カウンターの姉さんもこんなことをつぶやきます。

 「今度壁のペンキ塗り直さなくちゃ」「冬までに戸板の上にできたすき間調節しなくちゃ」

 みんなとても愉しんでセルフビルドというかセルフメンテしているんですね。

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 今度は、店に集まる連中がマスターが趣味のボード好きが多いためか、「輸入ボードの店」を町の中に出しました。

 インターネットでの販売がメインらしいんです。

 そして、ついに趣味と実益を兼ねて「ボードの練習場」のセルフビルドというわけです。

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 あ、もっとある!

 山形蔵王頂上付近の5階建て老舗ホテルの経営者が老齢のためホテルを誰かに譲りたいという意向があって、昨年マスターに白羽の矢がたちました。

 老経営者にいたく気に入られたマスター、意を決して受け継ぎ、数ヶ月住み込んで自ら斬新なリフォームを行ったようです。(特注薪ストーブとかは外注ですが、あとはほとんど自ら大工仕事をしていたようです)

 ということで「ホテル」経営者になりました。

  →三五郎小屋

 継ぐべきかどうか悩んでいる時期に、私と話をする機会があったんですが、そこで私の人生遍歴やその中で得たことを酒の酔いもあってあれこれ話しました。

 その日の帰り際マスターがこう言ったんです。

 「川嶋さん、私今悩んでいたことがあったんですが、ふっきれました。やることに決めました」

 それが、このホテルの引き継ぎのことだと知ったのは、ずっと後になってからでした。(光栄なような?申し訳ないような?すこし複雑です)

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 こんなに忙しいのに、しょっちゅうアメリカ、この前なんかはモロッコへ行ってたりして、いったい店はどうしてるんだろう?と思います。

 実は、各店の従業員がセルフビルド仲間でもあるようなフラットな関係みたいで、みんな片腕っぽいんですね。

 そんなユニークな人間関係も、とても参考になります。

 ソフト面の「企画」も新鮮です。 

 ワンショットバーでは、本格的なクラシックコンサートまでしてるんです。

 来るたびに必ず新しいことが企画されていてクラクラします。

 店(ワンショットバー)の運営についてもなかなかです。二十人くらいまで一人でやりくりしてるんです。それ以上になると居酒屋から応援に来ます。

 少数精鋭を支えているのがi−padを利用したオーダー&精算システム。

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 なによりも参考になるのは、新規のことについてあまり難しく考えず、これの次にこれが必要になったからやっただけ、というところですね。

 そして思いました。

 そんな発想ができるのは「自分たちで作れる」からに違いないと。

 「自分で作る力」が「バイタリティー」の源なんだと。