ビタミンB1の教訓

 「思い込み」より「身近な観察」が大事ですね〜。今では誰一人知らぬ者はいない「ビタミン」。その世界最初の発見(抽出)は鈴木梅太郎による米糠から抽出したビタミンB1でした。その発見には興味深いエピソードがありました。
 「思い込み」は演繹法的思考、「観察」は帰納法的思考といえるかもしれません。

 未知の解明においてはどちらも大事なんでしょうが、凡人である私には「観察」型の「帰納法的思考」しかできないようです。

 ぱらぱらと拾い読みしていた本に、そんな「観察」が「思い込み」に対して大勝利をおさめた例が載っていましたので引用します。

 あの大文豪であり陸軍の軍医総監であった森林太郎(鴎外)が、優秀すぎたせいか?自分の思い込みに固執し失敗した点が興味を引きます。

 「事実は小説よりも奇なり」は、「事実は思い込みより奇なり」だったのでしょうか?


池内了「ヤバンな科学」より

 また、鈴木梅太郎のピタミンB1の発見も、日本に特有の病気に着目したことに端を発する。

 明治時代、軍隊では兵士たちが脚気に悩まされていた。地方出身の兵士たちにとって、軍隊は腹一杯白米が食べられる唯一の場所であったようだ。しかし、その多くが脚気になり命を落とす者が多く出た。

 このとき、西洋の軍隊では脚気に罹らないことに気付いた海軍では、白米中心の軍艦とパン食の軍艦を編成し、どちらに脚気患者が多く出るかを調べるという実験を行った。その結果、パン食では脚気に罹らないことを確かめ、白米に麦を混ぜた食事にして脚気を追放することに成功した。

 一方、陸軍では、森林太郎(鴎外)が根拠不明としてそれを採用せず、脚気患者を出し続けたのである。ドイツ医学を学んだ森鴎外ほ、すべての病気は細菌が原因と信じ込んでいたため、理由が不明な処方を採用しなかったのだ。

 海軍の高木兼寛は、理由は不明であっても、病気予防に有効であればこれを採用するという柔軟な対応をしたと言える。

 これに着目して、精米したときに出る糠に脚気を予防する成分があるのでほないかと考えた鈴木は、徹底分析した結果ピタミンB1を発見したのである。高木の予防策と鈴木の発見が端緒になって、ピタミン研究が急速に広がっていったことはよく知られている。

 身近に起こっていることを徹底して調べれば、そこから大きな世界が広がってくるのだ。

 私のような凡人も強い「思い込み」を持っています。

 その思い込みとは「できるわけないさ!」というものです。

 でも、ほんとうは「なんだ、できるじゃないか!」ということはきっと多いんだろうな〜と思いました。

 目をこらして世の中の隅に隠れているひそかなキラメキを観察し、自らも小さな実験さえしてみたら。