フランスの農山村移住

 高齢化する農業者、私の身近な人たちにも切実な問題です。高齢の父と車の中でそんな話をしました。
 毎月一回、涌谷町立病院の東洋外科外来に90歳になる父を診察に連れていきます。

 ここで処方される漢方薬が功を奏し、父は元気に一人暮らしを続けています。(毎日食事作りに私が寄っていますが)

 何が「功」かといえば、食欲が落ちないこと、夜ぐっすり眠れることのふたつでしょう。

 「医食同源」、やはり食事をしっかり摂ることが健康の源であるようです。

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 病院の帰り、車窓に拡がる田んぼを見ながら「農業」のことに話が移りました。

 話は、数ヶ月前に跡取りの息子を亡くした父の実家の話となりました。 

 妻や子供のいなかった息子ゆえ、後に残されたのは86歳の老夫婦(父の甥にあたります)だけでした。

 専業農家で5町歩近い田んぼをつくっているのですが、農作業の要を喪ってしまったのでした。

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 「協同組合とかに任せんでないすかわ」と私。

 「それしかないべな」と父。

 「そうすっと、田んぼ一反あたり1万円とか2万円くらいしか入らないんじゃないすかね」と私。

 続けて「年金なんかも夫婦で年間100万くらいだろうから、年収150万くらいで生活することになんのかね〜」

 「かかるもの少ないといっても大変だべな〜」と父。

 →図表・グラフの引用元はこちら

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 父の実家に限らず、私の身近な人たちも同じような境遇になっていたり、ならざるを得ない状況にあります。

 たしかに子供の学費も借金もなし、持ち家、畑、米があれば生活はかなり節約できるとは思いますが、田舎は義理の出費が多いのが問題です。

 今では、TPPうんぬんの前に、もう農作業をする人自体がいない時代になってしまいました。

 いったいこれからどうなるのか。。。

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 きっと時代は、第一次産業の労働構造が思い切り変わる節目に来たのでしょう。

 これからの「農業」は、企業中心の「農産業」や「農工業」に変わっていくのでしょうか?

 しかし「農」というものは、生きることの原点であって、「産業」とはまるで異なる「価値」を持っていると私は思います。

 ですから、単純に経済効率だけで考えるべき仕事ではないと思うのです。

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 会社に戻り、無意識にある本に手が伸び、偶然に開いたページには今の話と関係する内容が書かれていました。

 その本とは、「私たちの仕事」というものの本質を追求する哲学者であり、自らも田舎に住んで農業にいそしむ内山節(たかし)さんの著書『戦争という仕事』でした。

 フランスの農山村のことが書かれていました。

 フランスは西欧というグローバリズムの中心にいながら、食糧自給率や自国の文化について、日本よりもしっかりした守りをなしている国であることは疑えないことと思います。

 それを推進した要素のひとつが、かつて社会主義思想から離反した「未来を模索する若者」たちの農山村への移住であることを知りびっくりしました。

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内山節(たかし)『戦争という仕事』より

「反グローバリズム」

 ・・・フランスではここ三十年の間に、都市から農山村に移住する多くの人たちを生み出してきた。

 この動きが百年近くもつづいた農山村の過疎化の歴史を終了させてしまったほどに、である。

 その人たちの中から、自然とともに、地域とともに、豊かな労働、豊かな人間関係とともに生きる道が提案されてきた。

 この担い手たちが、今日のフランスの反グローバリズム運動を形成し、いまでは大きな社会勢力になってきている。

 フランスの農山村に行くと、ひと昔前の社会主義運動と同じくらいの数の人々が、新しい思想を模索しながら、資本主義の問題点と対決し続けていることに気づかされる。

 パリでは労働者のストライキもデモも少なくなったけれど、それがフランスすべての様子ではない。

 自然とともに生きるとは、どういう生き方をすることなのか。豊かな働き方は、今日の経済システムのもとで実現できるのか。

 そういう問いから資本主義批判が展開される時代がはじまっている。

 この話を読んでほんのりと希望が見えるような気がしました。

 いつかきっと、新しき世界を模索する多くの人々が「自然」との共生を求めて、都市から田舎をめざすにちがいありません。
 日本でも今、農業を後継する、あるいは農業に興味を持つ若者たちのネットワークが少しづつ産声をあげてきているようです。

 私はこれからの「農業」が「農工業」や「農産業」だけではなく、新しき「農」にも発展していってほしいな〜と心から望んでいます。

 それは、経済性のみを尺度にする仕事ではなく、「善き生き方」「ナイス・ライフスタイル」をめざす仕事であればいいな〜と思っています。

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 今はつらい「過渡期」なのかもしれません。

 若者の挑戦といえば、だれもが同じようなことをしている「インターネットの仕掛けづくり」ばっかり目に付きます。

 若者にはそんな「虚業」ではなく、体と心と知恵が三位一体をなす「実業」への挑戦をめざしてほしいと心から思うのです。

 いつか私も何か後押しできるようなことをしてみたいと思って、日々こんなブログを書き続けています。

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参考
 徒歩は列車より速し
 ノボ辞典 「農」「農業」
 一人一人が一反百姓
 みんなの独創村って何?
 居心地のよいサイズ
 「人生の目的は?」と問われて。
 先祖のDNAが目覚める
 開拓のきっかけとなった本