足が遠のく映画館

 土日の楽しみが減ってきて寂しいこの頃です。4,5年前まで休日の大きな楽しみは「映画館」でした。今は観たいと思う映画がめったにありません。
 それじゃ家で映画専門チャンネルを録画して。。。と思っても、ここにも観たい映画は少ないんです。

 たまにクラシック映画が特集される日があります。

 このときとばかり、HDDに録りだめします。(ほとんど一度観た映画ですが)

 あ〜昔の映画はいいな〜、「ブリット」も「フレンチコネクション」も。。。主役が一生懸命走っていた。

 そんな映画ブルーの今日、以前書いたブログ記事を思い出しました。

 3ヶ月前に亡くなったピーター・オトゥール主演「アラビアのロレンス」のエピソードです

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2012/1/8

 映画の話です。最近の大作映画と昔の大作映画どっちがスゴイ!と感じますか?

 私はもうぜったい昔の大作映画ですね。そう感じるわけがあります。

 最近の大作映画、というよりも、最近のほとんどの映画はCG(コンピューター・グラフィックス)で制作されています。つまり「デジタル」です。

 昔の映画(〜1970年代)は実写です。つまり「リアル」です。

 世の中すべてデジタル化している現在、「デジタル」は「リアル」よりもすばらしい映像を創り出すはずだ、という潜在意識を多くの人が持っています。

 それは、「科学技術」が休みなく生み出す新しいものは、古いものよりも必ず価値が高いはず、という科学盲信主義が私たちの頭にすり込まれているからでしょう。

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 でもはたしてそうでしょうか?

 新旧の映画を比較すると「どうも違うな?」と思わずにいられません。

 最近の映画を見るとへきえきしてしまいます。みんなCGを使いすぎて、うすっぺらいものだらけです。

 以前はそうでもなかったんですが。。。「ジェラシック・パーク」とかせいぜい「タイタニック」ぐらいまでは。

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 故伊丹十三さんが、「アラビアのロレンス」とその主演をつとめたピーター・オトゥールについてエッセーを書いています。

 リアルの映画はまさに「命がけ」で制作されていました!

 なるほどこれじゃCGなんかかなうわけがないさ、と納得します。



伊丹十三「女たちよ!」より

 「アラビアのロレンス」の中で駱駝(らくだ)に乗った大軍同士が戦う場面があるが、両軍は現実に激しく憎みあっている部族同士であったから、殆ど真実の喧嘩に近いものであったらしい。

 死者も何人か出たという。

 デヴィッド・リーンという人は、そういう非情の人間なのかも知れぬ。

 この時先頭を走っていたピーターが駱駝から振り落された。何千頭の駱駝が全速力で駈けている、その先頭で落ちてしまった。

 誰しもピーターは死んだと思ったのである。

 ところが、不思議なものじゃありませんか。駱駝はそういう場合には落ちた人間の上に坐って他の駱駝の蹄(ひづめ)からかばってくれるのだという。

 そういう具合いにしてピーターは九死に一生を得たのであるが、撮影隊の連中はみんな顔面蒼白になってとんできた。

 いやはや、駱駝の下からピーターがごそごそ這い出した時の連中の喜びと安心はいかばかりのものであったろう。

 そんな中でただ一人、デヴィッド・リーン監督は顔色一つ変えずにいったのだ。

 「どうかね、ピーター、次のカット撮れるかね」

 こいつは鬼だ! ピーターはその時思ったそうである。

 ファースト・シーンのオートバイで死ぬくだり、あれもスタンド・インなんか使わなかったという。

 そりや随分危いじゃないか、というと

 「勿論危いさ。だからあの場面は撮影最後の日にやらされた」と答えた。

 ピーターは芯から舞台の人間で、映画はあまり好きではない。

 自分の出演した映画すら一本も見ていないのである。

 ハムステッドにある彼の家へゆくと、トイレットの中に「アラビアのロレンス」で獲ったさまざまな賞が壁一杯にかけてあった。

 昔の俳優や監督というのは、なんと本気、いやそれを通り越して、なんと「命がけ」だったことでしょう!

 かたや現代は、リスクゼロ、汗不要のCGフェイク映画ばっかし。

 「ジェラシックパーク」とか「ロード・オブ・ザリング」とか「アバター」とかCGでしか作れない映画はいいんです。

 ところが普通のアクション映画までCGまみれ、これじゃただの風邪に(不要な)抗生物質を処方するようなもんじゃないですか。

 さらに、作品は劣化していくのに観る道具はといえば、インターネットを利用してパソコンでもスマホでも、と豊富になる一方。。。
 
 絵画にたとえれば、額縁ばっかし多くて肝心の絵が複製みたいなものばっかし、ってことですね。今の時代というのは。

参考
 伊丹さん、上手すぎるよ!
 かまぼこ山とスパゲッティの木
 油が洩る車、だから安全?