アーティストは話が長い

 ジブリの名プロデューサー鈴木敏夫さん著『仕事道楽 新版』はもう面白すぎます!アーティストの生態を観察するファーブルやシートンのようです。
 生活も、仕事も、だれでも、どこでもみな同じ。

 「人生二人三脚」

 妻と夫、先生と生徒、ボケとツッコミ、社長と専務、美女と野獣?。。。

 そして極め付けは「芸術家とプロデューサー」

 鈴木敏夫さんがいなかったなら、ナウシカだって、トトロだって、千と千尋だって、かぐや姫だって観ることはできなかったことでしょう。

 彼こそ日本の文化と私たちの(一番大切な)感受性を守ってくれた恩人です。いや日本経済まで。

 ということが、鈴木敏夫さん著『仕事道楽 新版』を読んでいてわかりました。

 読み始めてあんまりおもしろいので友人にも勧めようと思い、先週末の飲み会で内ポケットに入れて行きました。

 ところが、酒は脳みそよりも強し。。。どっかの飲み屋でご開帳後、なくしました。。。

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 探すよりamazon川から釣ったほうが楽ということで、きのう再び届きました。

 パラパラとどこをめくってもおもしろいエピソードだらけです。

 まだ全部読んでいないんですが、何回かシリーズでレポートしていこうと思っています。

 それでは『仕事道楽』エピソード・ワン!

 アーティストは話が長い

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 私は鈴木敏夫さん型なんですが、仕事仲間には宮崎駿さんや高畑勲さん型の(自称)アーティストがいます。

 私はアーティストをとても尊敬しています。

 どうしてかというと、彼らの仕事は「創造」だからです。

 誰かが考えたことを、より速く、より正確に、より計算高く、なんていう「競争」とは世界がまったく異なります。

 この本を読んで、アーティストの条件のひとつを「なるほど!そうそう」と思いました。

 「アーティスト」というのは朝から夜中まで働き(常に創造を追っているという意味で)とても忙しいのに、

 話がとて〜も長い。

 次の話を読んでいて、なるほどな〜と思う身近な人たちの顔が浮かんできましたよ(笑)


1時間半かけて断られた

 (鈴木敏夫さんがはじめて高畑勲さんに会いたいと電話した時のこと)

 ・・・当時、記憶違いでなければ、高畑さんは宮崎さんが作っていた『未来少年コナン』(放映は1978年)という作品を手伝っていて、ちょうど、スタッフルームに二人、揃っていた。

 ぼくは高畑さんへの電話で、たんに会いたいと言っただけなんですよ。

 ところが高畑さんは、えんえんと会えない理由を述べるんです。

 それが一時間!!

 びっくりしましたよ。

 何を言ったのか、そのときの内容はもうほとんど覚えていませんが、『宇宙戦艦ヤマト』のヒットに乗っかって、大衆向けの雑誌をつくることには協力できない、そういう雑誌に自分たちが登場することに対して疑義がある、というようなことだったかな。

 今となってみるとどういう理屈だったか、覚えておけばよかったと後悔しています。

 ここで終われば単なる偏屈者か、という感じでしょうが続きがあるんです。

 高畑さんは、自分は断ったくせに同僚の宮崎駿さんに電話を回したんですね。

 「自分は取材を受けるわけにはいかないが、隣に宮崎駿というのがいる。電話を代わりましょうか」と言って。

 さらにそこから宮崎さんにも30分文句を言われ、えんえん延べ一時間半もかけて取材を断られたそうなんです。

 おもしろいのは、高畑さんも宮崎さんも実はとてつもない要望をもっていたようなんです。

 それは、どうせ雑誌に載るならちょっとしたコメントなんぞじゃいやだ、16ページの漫画を描かせろ、ということだったらしいんですね。

 なんと大それたことを言う人たちだと鈴木さんは思ったそうです。

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 それからしばらくして高畑勲さんと初めて会う機会が訪れました。


初めて高畑さんに会う

 ・・・高畑さんと外に出た。ところが、出てみるとその付近に喫茶店などない!

 二人でえんえん歩き、やっと見つけた喫茶店に入った。

 ここからがまさに高畑さん、座るやいなや、開口一番、

 「どうせあなたは原作のどこそこがよくて、ゆえにこの作品を作ろうと思ったとか、そういうくだらないことが聞きたいんでしょう」

 なんて言って、最初からほとんどケンカ腰なんです。ぼくもさすがに頭にきたことをよく覚えています。

 最初の出会いだったにもかかわらず、結局、なんと三時間以上しゃべってしまうことになりました。

 ・・・しゃべり終わった後に高畑さんが何を言ったか。それもよく覚えています。

 「どうですか、僕の話はまとまらないでしょう、まとめられるものならまとめてみてください」。

 そうなると、こちらもファイトが湧きます。「わかりました、まとめてみます」。

 ちゃんとまとめましたよ。

 ともかくこの出会いで、高畑さんという人のおもしろさにひかれ、用もないのに毎日行くようになりました。

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 何がおもしろいの?と思う人もいるかもしれません。

 私は零細企業の社長をやってきまして、太平洋のように広大な経済海のなかで必死に小舟をこいできたんです。

 ところがビジネスという奴は「時間泥棒」に乗っ取られた世界でして、1時間の話は10分に、10分も長すぎるからメールで。

 メールも本文読むひまないから「件名」に具体的用件書いてくれ、というような世界でして。。。

 まるで「百メートル競走」のごとく時間短縮だけに日夜励んでいる世界なのです。

  →「タイム」と「モモ」

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 そんな世界に逆らうように、というかガラパゴスの生き物のように、現代文明のばかばかしさに冒されず、野性のまま生きているのがアーティストです。

 ですから当然、金の巡りがあまりよくない人たちだらけです。(虫プロもひっくり返ったしな〜)

 「創造」「独創」のために産まれた「アーティスト」という貴種の宿命でもあるのでしょう。

 もちろん途方もない大金持ちとなってしまったアーティストもいますけど、もともとが金儲けのための金儲けじゃないところがビジネス人種とは大きく違います。

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 私が思うに、「金銭価値」だけを追い求め、日々劣化していくように感じる経済社会。

 何から何まで金太郎飴のように同じになっていくこの社会。

 そんな中で強く願うのはこんな言葉です。

 「仕事にも人生にもアートの心を」

  →ようこそあったかギャラリーへ

 ですから鈴木敏夫さんたちジブリの面々のこんな話に、身近な同類の方々を重ね合わせて強く共感するのです。

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 「時間泥棒」に乗っ取られていない人々を発見する方法はこう言えるかもしれません。

 「その人は長〜いお話しをしますか、できますか。どうでもいいことに」

 だって、何か大切なことや初めてのことをするのに、「効率」なんてあり得ませんよね〜。

 もし「効率」に価値があるとしたら、こうじゃないでしょうか?

 「(とても大切な)無駄な時間をつくるために、決まりきったことを速く済ませること」

 こんな観点もこれから重要になってきますよね。

 どんな大金持ちでもやり手の企業家でも、最終的に望むのは、「自分たちが人まねではない」こと、つまり「アート」のはずですから。

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 さてエピソード・ワンはこれくらいにしますが、巻頭からたった24ページまでの間に書かれていたことです。

 ページをくくるたびに出会うエピソードにビンビン刺激されっぱなしです。

 ですから、「アーティストの長話」のごとく、このシリーズもしばらく続きそうです。

 今後もお付き合いのほどよろしくお願いします。。。

参考
 東の「あにめ」と西の「アニメ」
 原作で読むナウシカ
 「似ているな〜」が必要な社会
 ナウシカの乗り物を作った人
 純文学映画「風立ちぬ」
 泣かせるホームページ
 「ナウシカ」の心、今いずこ
 本嫌いだった宮崎駿さん
 「コクリコ坂から」いいね!
 ナウシカスタイル