衝撃的なタイトルですが、ジブリの鈴木敏夫さんがそう書いているんです。『仕事道楽 新版』からジブリ話の第二話です。
なんという宝物のようなエピソードが満載の本なのでしょう。
前回に引き続き、ジブリの裏話、面白話を紹介させていただきます。
前回は→アーティストは話が長い
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今回のお宝エピソードは、宮崎駿さんがどのようにして「ストーリー」を考えつくのか、という発想の秘密についてです。
あの『千と千尋の神隠し』はキャバクラ話がヒントで生まれ、さらにストーリーさえキャバクラ物語であったと鈴木敏夫さんが語ってるんですよ!
鈴木敏夫『仕事道楽 新版』より
なにげない会話から発想を得る
彼(宮崎駿さん)はよく「企画は半径三メートル以内にいっぱい転がっている」と口走ります。
彼のあの豊かな発想はどこから生まれるのだろうと、みな興味津々だと思いますが、じつは彼の情報源は二つしかない。
友人の話、そしてスタッフとの日常のなにげない会話です。
宮さんはこう言うんですよ、「ジブリで起きていることは東京でも起きている。東京で起きていることは日本中で起きている。日本中で起きていることはたぶん、世界でも起きているだろう」と。
そういう理屈で、題材は半径三メートル以内に転がっているというわけです。
たとえば『千と千尋』。
アカデミー賞受賞の話題もー段落して、ようやく雰囲気が落ち着いたときに、宮さんがいつになくしんみりと、ぼくにこう言った。
「きっかけは鈴木さんのキャバクラの話だったよね」。
一瞬とまどいました。
「何でしたっけ?」。
ぼくはすっかり忘れていたんですが、知り合いの青年にキャバクラ好きがいて、彼が言うには
「キャバクラで働く女の子はどちらかといえば引っ込み思案の子が多く、お金をもらうために男の人を接待しているうちに、苦手だった他人とのコミュニケーションができるようになる。お金を払っている男のほうも同じようなところがあって、つまりキャバクラはコミュニケーションを学ぶ場だ」と。
ぼくはこの話がおもしろくて、宮さんに話したことがあったんです。
それが『千と千尋』のモチーフになったと言う。
たしかに、主人公の千尋はとんでもない世界に放り込まれて、いやおうなく周りとつきあわなければいけない。
そのなかで彼女のコミュニケーション能力が成長していくわけです。
また、重要なキャラクターであるカオナシは、思いの伝え方がわからず暴れてしまうわけで、裏返しの関係です。
宮さんはキャバクラの話がおもしろいなあと思って、ずっと覚えていた。
まいりました!
「千尋」がキャバ嬢で「カオナシ」がストーカー的な客だったというわけです。
しかもキャバクラは不健全?な場所ではなく、どうやらコミュニケーション道場でもあるらしい。
世の男性諸氏にとってはありがたき口実をご提供いただいたようなもんです。
とはいっても、私はもう十年ほどご無沙汰ですけどね〜(今度友人を誘って行ってみようかな、なんて)
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もうひとつ『崖の上のポニョ』の話もおもしろい。
スタッフとの交流の中で
最近でもこんなことがありました。
いま『崖の上のポニョ』(二〇〇八年夏公開。以下『ポニヨ』)という映画を作っているわけですが、主人公は五歳の男の子です。
宮さんも歳をとって、自分の身の回りにそういう子がいない。
そうしたらある日、ぼくのスケジュール管理をしてくれているアシスタントの白木伸子さんが子どもを会社に連れてきた。
六歳の男の子です。
宮さんはがぜん色めき立つ。
「ちょっとこつちにきていっしょに遊ぼうよ」。
遊んで楽しんで、同時にその間に観察している。
「いまの六歳ってこういう感じかな」と。
そして白木さんに「今度いつ来てくれるんですか?」。
結局、白木さんは毎週土曜日に連れてこなければならなくなって、大変だったんですけどね。
ある日、その男の子が宮さんに「おじちゃん、ぼくといっしょに遊んでくれるから」と、自分で作ったプレゼントを持ってきてくれた。
宮さん、喜びましたね、子どもに愛されると嬉しいものだから。
このエピソードはしっかり、映画のなかにも使っていますよ。
この話を読みながら、私もつい笑みがこぼれました。
自分の孫を思い出したからです。
ポニョのあの走り格好なんか、ほんとうに5歳のやろっ子のまんまでしたよね。
あの年頃の子供たちは、移動といえば「走る」であって、「歩く」は無きに等しいんですよね。
それにしても創作の「題材は半径三メートル以内に転がっている」というのはビックリです。
この辺を読んでいて、二人思い出しましたよ。
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一人は手塚治虫。
彼が独房のごときマンションの一室に閉じこもって(閉じ込められて)、昼夜問わず作品を描いていた様子をテレビでずいぶん昔に見たんです。
描く前にはストーリーが必要です。それも複数の漫画をかけもちです。
私は、独房に閉じこもった彼がどのようにしてストーリーを考え出すのだろう?と思っていたんです。
そうしたら、漫画を描きながら、部屋にある実にちっちゃなテレビを時々横目で見るんですね。
たったそれでけで発想が浮かび、あの奇想天外なストーリーの数々を紡ぎ出していたんです。
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もうひとりは芥川龍之介。
「杜子春」とか「南京の基督」とか、彼の作品は中国を舞台にしたものが多いです。
ところが、それらの作品を紡いでいた頃、彼は一度も中国に行ったことはなかったんですね。
実際に見なくても想像力で創造できる。
大作家ゆえとはいえ、人間は本来そのようなことができるのだな〜と思ったものです。
余談ですが「南京の基督」っておもしろいですよ。
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宮崎駿さんは、旅行にいっても写真は撮らないそうです。
自分の頭に映像を記憶するのだそうです。
記憶からオリジナルな造形が生まれる
特徴的なのは、こうしたものを描くとき、彼はいっさい資料を見ないんですね。
それまでに仕入れた知識・情報をもとに、記憶だけを頼りにオリジナルなものを作っていく。
たとえば『もののけ姫』の夕タラ場、『千と千尋の神隠し』(以下『千と千尋』)の湯屋、『ハウルの動く城』(以下『ハウル』)の城など、建造物のデザインの斬新さが言われますけど、これらはそういうなかから生まれている。
彼にとって重要なのは記録じゃなくて記憶なんです。
・・・記憶だけに頼るからオリジナルになる。
これにはぼくもちょっと影響を受けて、この間、カメラをできるだけ持たないようにしています。
カメラのファインダーを通しちゃうと記憶に残らないから、自分の目で見て残る物を大事にしたほうがいいのかなと。
この本は宝箱ですから、続きを書きたくてしょうがありません。
まだまだお付き合いくださいね!
参考
アーティストは話が長い
東の「あにめ」と西の「アニメ」
原作で読むナウシカ
「似ているな〜」が必要な社会
ナウシカの乗り物を作った人
純文学映画「風立ちぬ」
泣かせるホームページ
「ナウシカ」の心、今いずこ
本嫌いだった宮崎駿さん
「コクリコ坂から」いいね!
ナウシカスタイル