意地悪爺さん哲学者ショーペンハウエルの「幸福論」は毒舌です。まるで「たけし」が話しているようで時々笑ってしまいます。
「幸福論(幸福について)」なんて一ページも読めば眠くなりそうなタイトルですが、ショーペンハウエル爺さんのこの本はさにあらず。
(ショーペンハウエル:1788-1860、ドイツの哲学者。主著は『意志と表象としての世界』)
本人が実際に意地悪爺さん、へんくつ爺さんそのものであったせいか、逆に親しみが湧いて読みはじめると数十ページいっちゃいますね。
おもいっきり簡単にいうと、彼は「群れるな。一人で生きよ。それがとても愉しいのだ」と言ってるんです。
厭世主義哲学者とも言われてますが、実は裏返しの快楽主義者です。
文章も話しながら書いている感じで実に活き活きしていて、厭世的になるどころか、生きるエネルギーをもらえるようです。
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でも彼の人間性はとってもユニークで、イギリスの哲学者ラッセルは「西洋哲学史」の中でめちゃくちゃ彼の悪口書いてますよ。
現代に生きていたら、きっと日本テレビなんかで毒舌コメンテーターとしてレギュラー出演まちがいなかったことでしょう。
とはいえ「幸福論(幸福について)」はもったいぶった書き方してますから、一見難解そうに感じます。
そこで、ぱらっとめくったページを、私が超訳してみました。
「礼」ってのは、しょせん粉飾さ。
俺は別な本でその「本当の意味」を書いておいたんだ。
それはな、「我執の粉飾」ってことさ。
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ところが「礼」には、いまひとつ意味があるんだな。
それはこういうことだ。
「礼とは道徳的にも知性的にも貧弱なお互いの性質を互いに見て見ぬふりをし、これを互いにやかましく取り立てないようにしようっていう暗黙の協定である」
わかるか?
この協定あればこそ、お互い馬鹿丸出しを少し我慢して、ケンカしないようにするから両方得ってわけさ。
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言い換えると「礼」は「利口さ」だな。
だから「非礼」は「愚かさ」だ。
「非礼」をさらけだして、無用かつ軽率に敵をつくるなんて、わが家に火を放つに等しい気ちがいざただぜ。
なぜかっていえば、「礼」は「贋もんの銅貨」と同じで、こんなもの倹約するのは馬鹿の証拠ってわけ。
こんなどうでもいいもん、倹約しないことが「分別」ってもんだ。
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俺の言うことが信じられないって?
いいか、どこの国でも手紙の末尾はこう結ぶだろう。
「貴下の最も誠実なる下僕なにがし」
これが世の常識っていう証拠さ。
ま〜、ドイツ人だけはこの「下僕」の二字だけ省いてるけどな。
たぶん「どう見ても嘘だから」って、恥ずかしいんだろう。
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あ、それと反対に現実の利害を無視してまで「礼」を出し過ぎるのは問題だぜ。
たとえれば、「贋もんの銅貨」の代わりに「本物の銅貨」を大盤振る舞いするようなもんだ。
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「礼」ってやつはろうそくみたいなもんだ。
堅いんだが少し暖めるとしなやかになってどんな形にも変わるのさ。
だから、敵意を持った頑固な奴でも素直で優しい態度に出るように仕向けられる。
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とはいえ、やっぱり「礼」を実行していくの難しい。
なぜかっていえば、ろくでもない奴らに頭下げたり、他人に関心なんぞあんまり持たぬが幸せなのに、その逆をしなくちゃいけないからな。
だから「礼」を「誇り」ってやつと兼ねられたら、こりゃ見ものだぜ。
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侮辱ということは結局敬意をいだいていないことの表明なんだが、自分をあんまり「りっぱさま」に考えすぎてるとショックが大きい。
だけど、一般に人が他人を本心ではどう思っているかって考えればあんまり気にもならなくなるのさ。
それよりはむしろ世の中は「礼」っていう仮面でまわっていて、仮面の奥じゃみんなペロリと舌をだしてるんだ、って思ってたほうがいいさ。
そうすりゃ、仮面がずれたとかはがれたとかしてもあんまり悩まなくてすむだろう。
まして誰かが文字どおり無礼をはたらきかけてきたとしたら、そりゃ仮面どころかパンツまでかなぐり捨てて素っ裸になったようなもんだ。
そうなればもちろん、みんな素っ裸にになりゃ同じようもんだが、とてもみられたざまじゃないってこと。
超訳とはいえ、べらんめえ口調に直すだけみたいなもんでしたが。。。
それほど元々毒舌なんですよね。(だから好きですね〜)
ショーペンハウエル爺さんって悪役っぽくて可愛いし、話の内容も身近なことなのでわかりやすいですね。
笑ってしまうからやっぱり「幸福論」ですね。さすが!
→原文(日本語訳)はこちらです。
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<ショーペンハウエル爺さん関係の過去ブログ>
毒舌幸福論「人は変わりようがないのさ」
ショーペンハウエル「悩みは幸福の尺度である」
睡眠は死への利息払い
本を読むなという「読書論」
超訳「毒舌幸福論」
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