アンドロイドお母さん

 土曜の夜、テレビで「ロボットの今」を見ました。日曜日ある店で見た週刊誌には日本の少子化問題についての記事がありました。ふと頭の中で二つがドッキングしたんです。
 人体そっくりのアンドロイドを研究しているロボット学者の話は興味深いものでした。

 自らは移動せずに、アンドロイドを世界中に送り、遠隔同期で自分の代わりをしてもらうことができる。それも一度に複数体を。

 映画「サロゲート」も似たようなアイデアでした。(こちらは1対1ですが)

 自分の代わりに何体ものアンドロイドを利用できる社会とはどういうものだろうと妄想し、ショートSFを書いてみました。


(左:アンドロイドのミナミちゃん 右:?)

ノボ村長の妄想物語

アンドロイドお母さん

 人類革命は日本で始まった。

 ついに人類は女性の肉体だけで生命継承していくことをあきらめたのだ。

 2020年「アンドロイドお母さん」プロジェクトがスタートした。

 それは人類の進化なのだろうか、絶滅へ向かう退化なのであろうか。。。

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 とてつもない出来事の引き金が、実に小さな事件であった例は歴史の中に数多い。

 「人類革命」の引き金となった事件はなんだったのか。

 それは、今では伝説となった2014年東京都議会のセクハラヤジ事件であった。

 小さな火の粉がたまったガスに引火し大爆発を起こしたようなものだ。

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 島国ゆえ、先祖代々ほとんど同じ血統の人間たちで暮らしてきた日本。

 しかし少子化による人口減少とグローバリズムの圧力。

 いよいよ移民を大量に受け入れざるを得ない状況が近づいていた。

 そんな過渡期に起きたセクハラヤジ、いったん火はおさまったかに見えた。

 ところが。。。

 セクハラヤジの中途半端な幕引きと、女性尊重と言いつつ実はますますマッチョ化する政治の流れに対する国民の反感は思いのほか強かった。

 女性を中心に「根本的な解決」の必要性を感じる人たちは急速に増えていった。

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 2015年、「ウーマン・リブ」ならぬ「ウイメン・リブ」運動が活発化した。

 「ウイメン」という言葉は、「女性」の複数形「Women」ではなく、「We Men」を表していた。

 この言葉の表す意味はこういうことだった。

 「男と女の差別を根本的になくそう。みんな等しく人間なのだ」

 具体的には、「女性を妊娠出産から解放する」という生物学上とてつもない計画を構想していた。

 この運動に、女性はもとより、生命科学者、医療関係者、IT技術者、ロボット工学者、製造業界、もちろん投資ファンドもこぞって賛同した。

 過激な内容なのになぜ?

 それは多くの基幹産業に関わるプロジェクトなので、日本経済の驚異的回復を期待させるものであったからだ。

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 そして2030年春、世界最初の「アンドロイドお母さん」「サチコ」が子を産んだ。

 クローン技術で女性の子宮をつくり、アンドロイドに移植というか内蔵したのだった。

 人工知能には「母親」についての膨大なデータがインプットされていた。

 それをもとに「アンドロイドお母さん」は個性的?な子育ても工夫できるようにプログラミングされていた。

 これは「人類史上最大の革命」といってよいものだった。

 一人の(人間の)女性が理論的に何人もいや何十人、何百人もの子どもを産めるということなのだから。

 しかも女性は出産と育児から完全に解放された。

 「We Men」が現実となった瞬間だった。

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 2040年、女性は絶好調だった。

 政治、経済、社会において男女間の差はいっさいなくなった。

 自由を手に入れたと高揚する女性は多く、いわゆる「男女関係」は、すべて文字通り「女性上位」に変わった。

 しかし、アンドロイドに子宮細胞を提供できる女性は資産的にも遺伝的要素にも恵まれた階級に限られていた。

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 2050年、生産能力の増大によってあらゆる女性が「アンドロイドお母さん」の恩恵に浴することが可能になっていた。

 世界中いたる所で「アンドロイドお母さん」が爆発的に増えていた。

 しかし、別な異変が。。。

 女性に「ひげ」が生えてきたのだ!

 最初、男性も女性もびっくりしたが、まもなくこれこそ「男女の差」がなくなった証だと割り切る人たちが増えてきた。

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 2060年、「歴史は繰り返す」とはこういうことなのだろうか。

 思いもかけない事件が発生した。

 「アンドロイドお母さん」が人間の女性との差別に反対し、いっせいに子育てを放棄したのだ。

 彼女?たちは横断幕やプラカードを持って国会周辺を取り囲んだ。

 「私たちにも女性と同じ権利を!」

 これらの行動は「アンドロイド・リブ」とよばれ、権利獲得運動として世界的な盛り上がりを見せた。

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 その頃、日本ではいち早く国会議員としての立候補が認められ、そのうちアンドロイド数名(数体?)が当選した。

 ある日の国会で「アンドロイドお母さん」が演説した。

 「私たちは子宮ロボットではありません。人権(?)を認め、人間の女性と同じ扱いをしてください」

 与党席からヤジが飛んできた。

 「産めないのか?」「欠陥ロボットか?」「セックスできるのか?」

 演説中のアンドロイドは感情回路が突然ショートし、倒れてしまった。

 ヤジを飛ばした人間は人間よりも全世界のアンドロイドから非難された。

 案の定、名乗り出る者はいなかったが、声紋分析をしたら人間の女性と男性の声が入り乱れていた。

 この事件は10年後の「アンドロイド革命」を引き起こす端緒となった。

 その革命とは、「ロボットと人類の物理的融合」による差別の撤廃であった。

 →忍者部隊カオ