未来の美人さん

 歳とともに眼の性能が劣化してきたせいなのか、化粧とやらがワンパターンなのか、テレビに映る若い娘の区別がつかないことがよくあります。
 この写真なんかその典型ですね〜。(こちらはセイケイが原因かもしれませんが)


(2013ミス・コリア候補者らしいです)

 私と同世代の男性なら、次の言葉にきっとうなずいてくれると思うんです。

 「(いわゆる)美人でないほうがぜったい魅力的だよな〜」

ノボ・アーカイブス

「時空見聞録」より

 やっと、涼しくなってきた。

 そろそろ時空自転車をこいでみようと思い立った。

 空気入れをヨイショ、ヨイショと押し下げて、タイヤに新しい空気を送りこむ。

 これでよし! さ〜、秋乗りだ!

 おなじみの川べりの土手を走ってみると、空高く、風もいくぶんひんやりと感じる。

 気持ちいいな〜〜。

 案の定、いつもの穴ぼこにひっかかって、私はチャリとともに時空の渦に巻き込まれた。

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 到着した未来は、西暦2114年の同じ場所。

 しかし、このころ「日本」は六つの国に分かれていた。

 「小さいほうが無理がなくて質がいい」というのが、この時代の常識になっていたようだ。

 さっそく私は、この時代の人になりきって、あれこれ暮らしの観察を始めた。

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 町全体の感じは、私たちの時代とそんなにかけ離れてはいない。

 逆に緑が多く、騒音も少ない。

 空にはフライヤーと呼ばれる「のんびり飛行体」が、大きな蝶々のようにひらひらと移動している。

 小さいけれどとても瀟洒な家が多い。

 ある家の窓をそっと覗いてみると。。。

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 母親が一緒に暮らしている一人娘をせかしている。

 「ケメ子、早くしないと仕事に遅れちゃうわよ!送迎フライヤーがもうすぐ来る時間でしょう。一体何をしているの!!」

 「わかってるわよ、マミー。今大事なお化粧中なの。もうすぐ終わるからそんなに騒がないで」

 娘のケメ子は、リフレッシュユニットに入ってお化粧中らしい。

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 リフレッシュユニットを見て私は驚いた!

 未来の家の中といえば、だれでもが宇宙船の船内のような、金属やプラスチックでできた超合理的かつ無機的なあれこれを想像するだろう。

 しかし、実際はその反対なのだ。

 直径1.5メートルくらいだろうか、大きな木の中をえぐって秘密基地にしたような、まるでホビット庄ならさもありなん、という部屋というかユニットなのだ。

 そこに不思議な鏡があって、ケメ子はそれを見てしきりに体を動かしている。

 鏡に映っているものを遠目で見て、私は驚いた!

 「これは!ガイコツ?内臓?サーモグラフィー?」

 そう、私たちの時代、病院で見せられたレントゲン、エコー、MRI画像とそっくりなのだ!

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 ケメ子はそのユニットでいったい何をしているのか?

 お化粧をしているのだ!

 この未来では、お化粧は外見を化粧するのではなかった。

 「健康な身体こそが健康な外見を生む」ということが当たり前の社会となっていた。

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 鏡はケメ子の声に反応し、身体の透視やエコー画像、MRI画像を切り替えて、モニターに映してくれるのだった。

 悪そうなところがあれば、即MYドクターがホログラムに三次元映像で現れ、アドバイスをしてくれる。

 ケメ子の内臓、骨格、脳細胞すべて問題はなかったようだ。

 明るい顔をして、ケメ子はユニット(木の家)から飛び出てきた。

 肌つやの良い、活き活きとした若い女性だった。化粧など全然していない。

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 私はなにか懐かしい気がした。

 「こんな娘は昔の田舎にけっこういたっけな〜〜〜」

 時代が変われば美人の定義も変わる

 平安時代は、お多福さんのような顔、太めの体が美人の条件だった。

 科学や医療が極端に発達したこの未来では、美人の基準とは「身体の健康」にあった。

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 街をみれば、未来らしからぬそのまんまの自然がいっぱいで、騒音を出したり、煙を出したりする物は何もない。

 歩いている人がとても多く、その動作も表情もとてもゆったりとしていた。

 和服風の着物を着ている人も多い。

 私は未来に来たはずなのに、まるで江戸時代にでも戻ったような気がした。

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 そしてこんなことが頭に浮かんできた。

 「もしかしたら、未来は遠い明日にだけあるのではなく、過ぎ去った遠い昔にもあるのかもしれない」

 「それなら、私たちは誰でも未来を想像できるし、その中からより良き未来を選べるんじゃないか?」

 人というのは、新しもの好きだ。

 しかし新しいとは、決して未来だけにあるのではない。

 「新しい」とはただ単に「今、ない」ことを言うに違いない。

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 さて、もう帰らねばならない時間だ。

 ホットすることに、未来の夕日は私たちの時代と同じだった。

 「きれいな夕日だな。さ〜、暗くなる前に故郷に帰ろう」

 私は時空自転車のペダルを思い切り踏み込んだ。