茨木のり子さんといじめっ子

 春の訪れを知らせるもの、それは桜と入学式です。通勤途上、すこし大きすぎる制服を着た新入生が桜のプロムナードを歩く光景と出会う日はまもなくです。
 思い出すな〜。私が小学校に入学した55年前のあの日。

 実は入学初日に、隣の席の生徒に、買ったばかりのランドセルをナイフで何カ所も切られてしまったのでした。

 その子は貧乏でワルでした。

 中学を卒業してすぐに就職したんですが、勤め先で傷害事件をおこし、少年院だったか刑務所にも入りました。

 ところが、42歳の小学校の同級生が集まった年祝いでは、女の同級生たちに大もてだったんです。

 もうひとり、かなりスローなゆきおちゃんとともに。

  →ゆきおちゃん

 きっと二人には、どこか母性本能を刺激する要素があったのでしょう。

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 昔も今もある「いじめ」。

 でも、私たちの幼少の頃は「いじめる」ではなく「ひづる」といって、ちゃかす・いじるというような感じでした。

 今では陰湿な「いじめ」が多くなってきたようで、大きな問題になっています。

 でも新入生諸君、負けるな!

 いじめている子は、きっと君がまぶしくて好きなんだよ。

 茨木のり子さんが、そんな「いじめっ子」のことを詩に書いていました。


茨木のり子「自分の感受性くらい」より

 癖

むかし女のいじめっ子がいた

意地悪したり からかったり

髪ひっぱるやら つねるやら

いいイッ! と白い歯を剥いた


その子の前では立往生

さすがの私も閉口頓首

やな子ねぇ と思っていたのだが

卒業のとき小さな紙片を渡された


ワタシハアナタガ好キダッタ

オ友達ニナリタカッタノ

たどたどしい字で書かれていて

そこで私は腰をぬかし いえ ぬかさんばかりになって


好きなら好きとまっすぐに

ぶつけてくれればいいじゃない

遅かった 菊ちゃん! もう手も足も出ない

小学校出てすぐあなたは置屋の下地っ子


以来 いい気味 いたぶり いやがらせ

さまざまな目にあうたびに 心せよ

このひとほんとは私のこと好きなんじゃないか

と思うようになったのだ