『蠅の王』という少年漂流記

 『ロビンソンクルーソー』『十五少年漂流記』それに続く近未来少年漂流記『蠅(ハエ)の王』は実に衝撃的でした。この本はノーベル賞作家ゴールディングの代表作とのことです。十数名の少年たちが無人島の生活でどのように変化していくか、人間社会のもつ根源的で必然的な傾向というものを強く感じさせられました。

『詩集ノボノボ』より

『蠅の王』という少年漂流記

 『蠅の王』は実に印象的だった

 なにかを書かずにはいられない気持ちになった

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 この話の前段になるが

 『ロビンソン・クルーソー』をまた読んだ

 小学校から数えてたぶん7,8回目くらい

 それにしても こんなに面白い本はない

 著者デフォーは当時六十に近かった

 しかも彼の処女作だったとは

 なんと自信を与えてくれることだろう

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 漂流ものや冒険ものが好きなので

 続けてあれこれ読んでみた

 その中の一冊

 ゴールディング著『蠅(はえ)の王』

 本の名前にたがわず実に衝撃的だった

 そして名作だった

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 第三次大戦が起きたらしい近未来

 疎開先へ向かう飛行機が無人島に墜落した

 生き残ったのは少年たちだけ

 下は7歳、上は12歳くらいの十数名

 聡明で正義感の強いラーフがリーダーとなって

 サバイバルが始まった

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 ある日 ほら貝をひとつ見つけた

 ラーフはルールをつくった

 発言する者は必ずほら貝を持つこと

 交替で烽火の見張りをすること

 幸運にも野生の果物が多い島で

 しばらくはなんとか順調だった

 しかし 森には魔物が住むという恐怖が

 皆を支配していた

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 野生の豚が破局のきっかけだった

 豚狩りに熱中していたジャックとその一味は

 烽火を消してしまいラーフにたしなめられた

 獣を狩る喜び、肉を得る欲望に憑かれた彼らは

 ラーフたちと決別する 

 泥や染料で体を塗りたくり、獣のごとくになっていく彼ら

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 サイモンという少年が森の中で『蠅の王』と遭遇する

 彼は呪文にかけられたように狂い走り死にいたる

 『蠅の王』は豚の頭に蠅がたかったものだった

 ジャックらが森の魔物にささげた供物なのだ

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 理性に従おうとするラーフたち

 欲望に身をまかせるジャックたち

 ついに対立が激化する

 対立はやがて少年とは思えぬ残虐性を帯びていく

 肉の味、太鼓のリズム、野生のジャングル

 皮肉なことに 戦いの中で

 ラーフたちも感化されていくのだった

 弱虫でど近眼だが頭の良いピギー

 彼はラーフの親友だったが

 追いつめられたすえ崖から転落死する

 理性、謙虚が情念、暴力に侵されていく暗喩だ

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 手負いの獣のように逃げるラーフ

 彼をジャングルに追い詰めていくジャックたち

 火を放ち 殺戮の熱狂はエスカレートしていく

 まるで高速度カメラを用いた映画のように

 猛烈なスピード感を覚えさせる後半だ

 もうこれまでか、と思った瞬間

 最後の救いが現れる

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 ただただ泣きくずれるラーフ

 ほかの子供らも嗚咽する

 しかし、真の救いはない

 彼らは知ってしまったのだ

 人間の心の「暗黒」を

 彼らは失ってしまったのだ

 人間の心の「無垢」を

 そして 大人の世界で行われている戦争も

 明日も明後日も続いていくことだろう

 →ノボ村長の「詩集ノボノボ」