美智子様が大好きな詩「絶望第一号」

 ドイツの作家ケストナーは「エミールと探偵たち」や「飛ぶ教室」などの作品で有名です。彼の『人生処方詩集』という詩集の中に美智子様ご推薦のとても心温まる一篇があります。
 それは「絶望第一号」という詩です。

 美智子様はかつて国際児童図書評議会ニューデリー大会の講演でこの詩を紹介したそうです。

 大変勝手ですが、私は、皇后美智子様、吉永小百合さん、オードリーヘップバーンの三人が、きっと私たちの時代のマリア様に違いないと信じています。

 マリア様の選んだ一篇にとても心を癒やされます。


エーリヒ・ケストナー
「人生処方詩集」より

「絶望第一号」(またの訳名を「最初の絶望」)

小さな男の子がひとり
ほてった手に 一マルク握り
路を走っておりました
もう時刻も遅いので 店の人たちは
壁の時計をこっそりと 横目でにらんでおりました

坊やは急いでおりました 走りながらピョンと跳び上り 口の中で言いました
「パン半分 ベーコン上4ポンド」
まるで唄でもうたっているよう そのうち唄がハタと止んだ
握っている手をあけて見たら お金がなくなっておりました

坊やは立ちどまり 暗闇に突っ立った
ショーウィンドウの灯が消えた
星のひかりは綺麗だが
お金を捜すには ひかりが足りぬ

いつまで立ってるつもりでしょう
こんなにひとりぼっちになったことがない
ガラスの上で 鎧戸が鳴った
街燈が居睡りを始めました

坊やはなんども両手をあけて
ゆっくりクルクル廻していたが
それからいよいよ望みも絶えた
もう げんこをあけて見る気もしない

お父さんはお腹がすいていた
お母さんはつかれた顔していた
ふたりは坐って待っていた
坊やは裏庭に立っていた ふたりはそれを知らなかった

お母さんは心配になってきた
とうとう 捜しに行って 見つけました
坊やは小さな顔を壁にむけ
絨拠掛けの鉄棒に じっともたれておりました

お母さんはハッとした いったいどこへ行ってたの?
坊やは大声で泣き出した
坊やの胸の苦しさは お母さんの愛より大きかった
それからふたりはしょんぼりと お家へ入ってゆきました