ノボノボ童話集「アキレスと亀」

 私たちはアナログよりデジタルが進んでいると思いがちですが逆ではないでしょうか? 究極のアンドロイドとは今ここにある人間そのものです。デジタルという頭がアナログという自分の尻尾を追い続けるみたいですね。ときどき不思議に思えてきます。

ノボノボ童話集

アキレスと亀

 彼は天才科学者である。

 世間の煩わしさから遠ざかろうとして、

 いまだ文明の及ばぬ南の島で研究を続けることにした。

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 水平線に沈む夕日の美しさは、彼の心をとりこにした。

 それとともに、自然に対する挑戦の気持ちが燃え上がってきた。

 自然の美しさを超えられないなら、科学技術などいかほどのものか。

 さっそく人工虹をつくる研究を開始した。

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 それからたった一年後。

 文明社会でそのころ使われていたコンピューターの性能を

 はるかに超えるマシンをつくり、人工虹Ver1をつくった。

 彼は、自然の虹と同レベルかなと満足した。

 島の住民にも見てもらうことにした。

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 機械のまわりに集まった島の住民たち。

 村全員といってもいいくらいの人数だ。

 彼はさっそく人工虹をこしらえてみせた

 どうだ、といわんばかりに。

 しかし、島の住民たちはポカンとしている。

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 彼は不安になってある少年にたずねた。

 「どうだ、本物の虹と同じだろう」

 ところが少年は本物よりも色が足りないと言って

 「たとえばここが」と具体的に指摘する。

 みなも「そうそう」とうなずく。

 たしかに言われてみればそうだと彼も気づいた。

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 この後、彼は必死で人工虹Ver2、Ver3とつくり続けるのだが、

 そのつど島の住民の眼はとんでもない精確さで、色が足りないことを指摘する。

 さすがの彼もギブアップしそうになったが、

 天才科学者としてのプライドにかけて、人工虹に挑戦し続けた。

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 それから10年後、Verは100を超えた。

 とんでもないほどのレベルになったのだが、やはり本物の虹に追いつけない。

 島の住民たちはのんびりと日々変わらぬ生活を過ごしながら、

 彼のことを哀れに感じていた。

 「境をいくら細かくしたって、もともと無限のものには追いつけないのにな〜」と。

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 いよいよ寿命が尽きそうになったとき、

 消えゆく意識のなかで、彼はある寓話を思い出していた。

 それは「アキレスと亀」

 人間がアキレスで、自然が亀だ。

 人間が自然を追い越すことはできないのだろう、たぶん。。。

 最期に、気持ちがす〜〜っと楽になった。

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 水平線には、今日も夕焼けが無限の色を見せている。

ノボノボ童話集
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