ノボノボ童話集「恐怖のミイラ」

 私の世代で定番の思い出話、そのひとつが「恐怖のミイラ」というテレビ黎明期のホラー番組です。童話のテーマを考えていたら突然思い出しました。本当はほのぼのメルヘン系を書きたいのに、ホラーかお笑い皮肉系になりがちです。書きながら自分の性格を見るような気がします。

ノボノボ童話集

恐怖のミイラ

 小学2年のとき、わが家にテレビがやってきた。

 「恐怖のミイラ」という番組とともに。

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 月夜、人影なき街はずれ、

 トレンチコートに山高帽の男の影。

 肩をすぼめ、脚を引きずりながら、

 静かに後ろを振りかえる。

 包帯の中に光るひとつの眼。

 テレビの前の私が、逆に見つめられる。

 これほど怖いものはなかった。

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 あれから半世紀以上もすぎた。

 ミイラについてさまざまな話を知ったが、

 ツタンカーメンの呪いには衝撃を受けた。

 発掘の関係者が次々と変死したという。
 
 恐怖のミイラは本当だと思った。

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 さらに、還暦を過ぎたこの歳になって、

 はじめて知った信じがたい真実がある。

 その話とはこうだ。

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 特殊な方法で埋葬され、後にミイラとなったのは、

 高貴な王族という身分ゆえではない。

 特殊な血統の者という運命ゆえだった。

 彼らは、古代より続く不死身の一族なのだ。

 決して吸血鬼でも妖怪でもない。

 王族たる優れた能力を備えた人間の一種族なのだ。

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 われわれはだれもが不死にあこがれる。

 しかし逆に、不死の者は死にあこがれる。

 彼らは煩悶した。

 生きる苦しみから逃れるすべはないのかと。

 古代エジプトの神官がそれを解決した。

 死ねないが、永遠の眠りにつくことはできる、と。

 それがミイラなのだ。

 不死を願う者ではなく、死を願う者が

 「疑似の死」として

 黄金の棺に封印されたのだ。

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 その棺を開ければ彼らが目覚めるのは当然。

 かくして盗掘者に捨てられたミイラは、

 恐怖のミイラとなってさまよう。

 学者によって封印を解かれたミイラは、

 精神エネルギーを用いて彼らに復讐した。

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 この真実は古代エジプトだけの話ではない。

 私たちの身近にも不死の種族は存在する。

 一般人にも知られた数少ない人物のなかに、

 空海上人がいる。

 即身成仏をとげ、高野山で今も生きている。

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 天才は、なにゆえ天才なのか。

 そのひとつの理由は、彼らが不死のゆえである。

 時間を無限に持っているからだ。

 この真実を明らかにするには、

 歴史上の天才とよばれる人間の墓を暴き、

 彼らの眠りをさますことが必要だ。

 しかし、エジプトのミイラ発見後、それは不可能となった。

 能力が極めて高い彼らの一族は、政治、経済、学問、芸術、

 全世界であらゆる分野の中枢を担っているからだ。

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 実は戦争が絶えない理由もそこにある。

 金持ちや政治家、高い身分の者が戦争を始め、

 決して戦争の犠牲とならずにすむのは、

 実は、彼らが不死身の一族だからである。

 彼らにとって戦争はアクション映画に等しい。

 文字どおり「血わき肉おどる」楽しみがなければ、

 不死の退屈、不死の悲しみを

 紛らわすことなどできないからである。

ノボノボ童話集
 →「無敵の鎧」
 →「妖怪ワケモン」 
 →「森の言葉」
 →「究極の薬」
 →「アキレスと亀」
 →「宇宙への井戸」
 →「思いがけない幸せ」
 →「本屋の秘密」
 →「美しき誤解」
 →「サンタの過去」
 →「車のない未来」