ノボノボ童話集「リンゴ箱のもみ殻」

 ラジオで読者投稿の紹介がありとても心が和みました。こんな内容です。「今から半世紀も前、昭和40年頃の話です。家に木のりんご箱が届きました。小さかった私は蓋を開けてみて、籾殻だけなのを見てがっかり。しかし籾殻の中を手で探るとあったんです!りんごが。とても嬉しかった」このお話をもとにして童話もどきを書いてみました。

ノボノボ童話集

リンゴ箱のもみ殻

 もう半世紀以上も前のお話です。

 僕は小学校四年生でした。

 その頃の冬の寒さは、

 今よりずっと厳しいものでした。

 ゴム長靴の中に「わら」をしいて、

 学校に通ったことを思い出します。

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 学校の授業が終わると、

 同級生と雪遊びしながら家に帰りました。

 濡れた毛糸の手袋をぬぎ、

 すぐに火鉢に手をかざしたものです。

 火鉢の上には「やかん」がのっていて

 しゅ〜しゅ〜と湯気を立ていました。

 それを眺めていると、手指だけでなく、

 心にも温もりが戻ってくるようでした。

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 ふと縁側を見たら木箱がありました。

 僕が初めて見るものでした。

 厚く粗い杉板で無造作に組まれたその箱は、

 僕が入れるほどの大きさがありました。

 ふたの釘はすでに抜かれていました。

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 もしかして?

 お母さんが年末に何か来るかも知れないよ、

 と言っていた「まさおんちゃん」からの

 おくりものかもしれない。

 僕は、さっそく中を見たくなりました。

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 お母さんは流し場で、

 石油コンロに火を付けようとしています。

 よし、今だ、と思って縁側に行って

 木のふたをはずしました。

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 そうしたらびっくりです。

 えっ、なんだ、これはもみ殻じゃないか。

 やはり「まさおんちゃん」はいい加減だ、

 とそのとき思いました。

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 行商のような仕事を転々とし、

 いつも居場所がわからない「まさおんちゃん」は

 時々ふらっと、わが家へ寄ります。

 何日かいて景気の良さそうな話をします。

 時々、僕をパチンコなんかに連れて行ってくれます。

 どうやらすぐ上の姉であるお母さんから、

 少しばかりお金を借りて行くらしい。

 それは、二人の表情で子供心にもわかりました。

 お父さんは知らんぷりをしていました。

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 そんな「まさおんちゃん」が、

 青森から送ってよこしたらしい大きな木箱。

 それがもみ殻だなんてふざけてる。

 僕は頭にきてもみ殻の中へ拳を突っ込みました。

 ところがもみ殻は温かくて、

 握るととても気持ちがいい。

 面白くない気持ちが安らいでいくようです。

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 そのままもみ殻の中をまさぐっていたら、

 固いものが手に当たりました。

 それは大きなリンゴでした。

 何度かまさぐって十個もリンゴを見つけました。

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 大きな木箱の中で、

 わざとたっぷり余裕を持たせられ、

 はるばる青森から汽車で送られたリンゴたち。

 まるで、ほっぺの赤い津軽娘のように、

 とても生き生きしていました。

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 お母さんがやってきて、

 笑みを浮かべて言いました。

 よくまあ〜、まさおがこんな上物リンゴ

 送ってよこしたごと。

 庭の梅の花でも咲いでしまいそうだっちゃ。

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 それからお母さんはリンゴをひとつむきました。

 僕と妹は、大きくて甘酸っぱくて歯ごたえのある

 本場のリンゴが別な国の果物のように思えました。

 そして「まさおんちゃん」が異国にでもいるように

 思えてしまいました。

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 リンゴを食べた後もう一度、

 僕は木箱のもみ殻の中に手を入れました。

 まるで砂遊びでもしているように

 無心になれるのでした。

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 あの日から数十年後、

 まさおんちゃんは病院で死にました。

 多額の借金という大きな迷惑を

 お母さんや他の兄弟に残していきました。

 まさおんちゃんをよく言う人は誰もいません。

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 しかし今でも僕は、

 生き生きとしたリンゴがまばらに入った

 大きなリンゴの木箱と、

 温かかったもみ殻の感触が、

 まさおんちゃんの面影に重なるのです。

 今はもういない、あの日リンゴをむいてくれた

 もんぺ姿の元気な母親の笑顔とともに。

ノボノボ童話集
 →「無敵の鎧」
 →「妖怪ワケモン」 
 →「森の言葉」
 →「究極の薬」
 →「アキレスと亀」
 →「宇宙への井戸」
 →「思いがけない幸せ」
 →「本屋の秘密」
 →「美しき誤解」
 →「サンタの過去」
 →「車のない未来」
 →「恐怖のミイラ」
 →「一番暖かい服」
 →「沈黙は金」
 →「素晴らしき嘘」
 →「未来から来た花嫁」
 →「未来のお化粧」
 →「幸せのタイミング」