ノボノボ童話集「夢を描く画家」

 私は一枚の良い絵は何百冊もの本に値すると感じています。絵は人の直感に働きかけ、すべてを一瞬にして理解させる力を持つ芸術だとずっと思っていました。その究極は「曼荼羅」ですね。これは全宇宙を顕しているわけですから存在するすべての本以上ということになるでしょうか。

ノボノボ童話集

夢を描く画家

 絵画は本当にすばらしいと思う。

 一枚の良い絵は何百の良書に匹敵することだろうか。

 一瞬にしてすべてを理解させる力、

 絵画ほどその力がすぐれているものはない。

・・・・・・・・

 しかし、描く方の画家は一面不憫でもある。

 彼らは創造の業を背負ったシーシュポスである。

 自ら描いているのではない。

 何かとてつもないものに描かされているのだ。

 これから登場する彼もその一人である。

・・・・・・・・

 ところが彼の天才とは実に奇妙なものである。 

 彼が天才であるゆえんは「描く絵」にあるのではない。

 「描く対象」にあるのだ。

・・・・・・・・

 彼が絵を描くのは夜中である。

 描く場所は依頼者の寝室である。

 しかもその枕元である。

 描くのは依頼者の「夢」である。

 そのキャンバスはなんと依頼者の脳なのである。

・・・・・・・・

 暗闇の中で彼は依頼者の夢を絵に描き、

 脳の中へ飾って去る。

 翌朝依頼者は、その絵を見て感動し了解する。

 そして迷うことなくわが道を進む。

・・・・・・・・

 画家の彼とはだれか?

 それは天界から遣わされた「希望の天使」である。

 依頼者はどのようにして画家をよぶのか?

 無意識に発する「意志」や「情熱」の波動が、

 天界に電波のごとく届くのである。

 こうして毎夜、天使である彼は、

 天界の指示に従い世界中をまわり、

 「新たな道を創る人」たちの夢を描いている。

・・・・・・・・

 天使とは「赤ちゃんエンジェル」だけではない。

 「希望の天使」である彼の姿は「中年のおじさん」である。

 そして彼は今、休む間もなく忙しい。

 なにせ現世では「失望」や「絶望」が増えつつある。

 天界も「大量難民」という二次災害を避けようと必死なのだ。

ノボノボ童話集
 →「無敵の鎧」
 →「妖怪ワケモン」 
 →「森の言葉」
 →「究極の薬」
 →「アキレスと亀」
 →「宇宙への井戸」
 →「思いがけない幸せ」
 →「本屋の秘密」
 →「美しき誤解」
 →「サンタの過去」
 →「車のない未来」
 →「恐怖のミイラ」
 →「一番暖かい服」
 →「沈黙は金」
 →「素晴らしき嘘」
 →「未来から来た花嫁」
 →「未来のお化粧」
 →「幸せのタイミング」
 →「リンゴ箱のもみ殻」
 →「ストーブ隊長」
 →「人生相談の達人」
 →「驚きのタイムマシン」