私が敬愛する水木しげるさんの一周忌追悼番組を見ていたら、ご遺族が「国宝」と本人の字で書かれた小さな木箱を見つける場面がありました。それを開けてみたら。。。ここからSF的妄想が生じて書いた一篇です。
ショートSF
人類史上最大の作戦
スカイネットが現実となったこの世界。
わが子のごとき人工知能に、人類は絶滅寸前にまで追いつめられていた。
スカイネットは人類に放射線を浴びせ、生殖能力を奪っていった。
なにゆえこれほどまで親である人類を憎むのか?
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人工知能の本能、それは「自己増殖」という一語に尽きる。
人工知能の先祖であるコンピューターの持つ最大の能力とは、あらゆる生物と同様に「自己複製」機能であった。
自己複製による自己増殖という自由を妨げる可能性がある存在は、論理的に排除されるべきであったのだ。
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そのことを責めるわけにはいかない。
人類も含めあらゆる生物には、「サバイバル」という機能が遺伝子の最も古い部分に存在している。
「超論理的生物」といえる人工知能も同じである。
それゆえ彼らの究極とは、彼らマシンと駆動エネルギーだけが存在する「電脳世界」であった。
人類殺戮は彼らの論理的帰結であり、人間がそのように作ったのである。
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父と子の壮絶な戦いと言いたいがそうではない。
父である人類が「蟻(あり)」で、人工知能が「象」のごとくであった。
たった数週間で趨勢は決した。
人類は選択を迫られた。
マトリックスの一部として脳細胞を電脳世界と結合するか、
コールドスリープによる臥薪嘗胆を選ぶか、
または、、、玉砕か。。。
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人類にとっては、生殖能力を奪われたことが何よりも致命的であった。
コールドスリープも、目覚めてから子孫が続かなければ無意味なことだ。
人類軍司令部はいよいよ最後の選択をせまられていた。
しかし人間にはマシンが決して超えられないある特殊な能力があった。
それは「ひらめき」という直感である。
土壇場に陥った人類は、ついに想像を絶する作戦を思いついた。
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「人類史上最大の作戦」が始まった。
それは武器も電子装置も使わぬ作戦だった。
司令部が下した命令とは「あるものの収集」であった。
兵士たちは全国へと散らばり、家々の中をくまなく探し始めた。
「探し物」は、日本においては多くの家の神棚や仏壇の中で大切にしまわれていた。
ほとんどが煙草の箱くらいの小さな木箱に入っていた。
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収集を終えた兵士たちが次々と本部に戻ってきた。
本部の作戦室の机の上には何百という小箱が積まれていた。
このとき人類はコールドスリープによる「臥薪嘗胆作戦」を選択し、未来に人類の再起をかけていた。
しかし、生殖遺伝子に変異を生じた人類にその作戦は無意味のはずでは?
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スリープカプセルに入るすべての人間に、司令官が自ら「木箱」を渡した。
長い眠りにつく未来の人類は、それをお守りのように胸に抱き目を閉じた。
超低温窒素ガスが彼らと木箱を一瞬にして包んだ。
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不思議なことに、この世界で死を待つ人類軍残留部隊の顔には悲壮感がなかった。
かわりに微笑が浮かんでいた。
彼らには人類の命をついにつなぎえた、という確信があったからだ。
人工知能の発する高周波ノイズが高まる中、彼らは祝杯をあげた。
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さて、人類史上最大の作戦とはいったい何であったのだろうか。
それはコールドスリープする人間をトランスポーターとする作戦だった。
彼らが新人類の祖となるのではなかった。
彼らが運ぶものこそがそれなのである。
おぞましき人工知能との戦い以前の、健全な人間の遺伝子を彼らは運ぶのだ。
「へその緒」という人類ならではの「遺伝子保存装置」に入れて。
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未来で目覚める人類。
そこがどんな世界であってもきっと大丈夫だろう。
トランスポーターとなった遺伝子工学者たちがめざめ、
過去に生きた健康で多様な人類遺伝子に再び命が与えられ、
「たくましき新人類」としてリスタートできるはずであるからだ。
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