ノボノボ童話集「トランポ・ザ・ワールド」

 トランプさんのタマゲタ政策を日本ではまだ対岸の火事みたいに思っている人が多いようです。しかし当事国の人たち、特に移民や女性にとっては70数年前の欧州を連想させるような悪夢に違いないことでしょう。いったいどうなることやらと心配しつつ、まさかの未来予想図を描いてみました。

ノボノボ童話集

トランポ・ザ・ワールド

宇宙は多元並行時空体、つまりパラレル・ワールドである。

2017年1月、アナザーワールドのアベリカにトランポ大統領が誕生した。

アベリカ国民のみならず、世界中がショックを受けた。

トランポはアベリカがまとっていた知性のシルクフンドシを自らはぎとり、フルチンで全世界に吠えたからだ。

この国では建国以来このような無頼漢がときどき出現し、権威や権力をひっくり返すことが常態であった。

「神の前で平等だろう俺たちは。なのに利口ぶったてめえらが国や富や権力を牛耳っているのはゆるせね〜、天誅じゃ!」

やがて無頼漢が逆に権威・権力に変わり、今度は自分が倒されていくことになっていく。

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トランポをヘトラーのごときポピュリストとみなす輩も多かったが、やることは逆だった。

ヘトラーは外国の塀をぶっこわして侵略したが、トランポは自分の国に塀をつくって要塞にした。

「俺っちの偉大な敷地を荒らす奴は容赦しね〜ぞ!俺が守るのは家族であってよそもんじゃね〜!」

自分らの生活のことに置き換えればもっともな話に聞こえるし、グローバリズムの弊害が拡大するこの世界ではいつかどこかで起こるはずの噴火であった。

ところがこの噴火、世界のあり方をすさまじく変える大噴火となった。

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アベリカ、いや全世界のその後を見てみよう。

まず従来の「国民国家」に対抗して「インターネット国家」が出現した。

もともと移民の多様性を創造力や技術力の源としていたインターネット企業だが、トランポ政権では立ちゆかなくなると判断し、全世界のインターネット企業が団結して統一ネット国家をつくった。

マックロソフト、アッパレ、グルグル、ヘスブック、バク天、ソフト銀行、ジジババなど有名なIT企業がこぞって参加した。

なんと「アノニマス国」という「ハッカー国家」までできあがった。

時おり発生する「通常兵器」対「情報兵器」の戦いは、まさに未来のスカイネット戦争の前哨戦のようであった。

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従来国家の外交も大いに変わった。

何ごとも経済原理で進めようとするトランポ大統領である。

しかも、外交の相手国はオソロシアのブーチン大統領、ラフランスのルンペン首相など超弩級のドンたちである。

トランポは彼らの性質にぴったりな外交ルールを提案した。

それはカジノ国家案であった。

ドンパチはお互い高く付く、これからのヤクザ世界は経済合理主義で白黒付けようぜ、鉄火場でゲンナマ勝負ということだ。

ということで、国際賭博場「ラソベガス」には巨大ルーレットやらヤポン製超高性能パツンコなどが多数設置され、国家の威信をかけて毎月国際勝負(戦争)が行われた。

ヤクザ世界の印象とは反対に、結果的にどの国も一般民衆の寿命を長くすることや自然保護に役立った。

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宗教も大いに変わった。

インターネット国家の繁栄というのも一因だが、なんでもネットにお任せという風潮が強くなり、紙の本も消滅した。

今や人々は昔の原稿用紙一枚程度の文章しか読めない、理解できない。

その結果、宗教までも難しいことはいっさい巨大代理店にお任せとなった。

クリスト教を例に取ると、神様と直接取引のフロテスタントより、神様の代理店であるガトリックにすべてお任せが増えた。

なにせ、日曜学校で難しいことを優しく話して聞かせられる牧師が絶滅危惧種となってしまったからだ。

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大学も大いに変わった。

居酒屋やキャバクラ、コンビニでアルバイトする学生がとても多いので、いっそのこと大学で経営してしまえということになった。

今や授業料は全大学無料だが、国の税金で運営しているのではない。

大学の自主自営で居酒屋やキャバクラ、コンビニの売上げアップに日々教員も学生も努力しているのである。

「勉学進むぞ、安くて美味しく腹一杯!」とか「勉学の癒やしはやはり可愛い娘!」「コンビニ完備でオタク生活を満喫しよう!」

今や大学は「文武一体」ならぬ「文利一体」である。

実際は、学生の親が客の多くを占めており、授業料を負担しているようなものであると考える人たちもいるのだが。

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というわけで、以前の世界観を基準にしたまま変えられない人にとっては、まるで冗談のような世界なのだが、よくよく考えると決して悪くなさそうである。

なぜかといえば、以前の世界より戦争で死ぬ人は大幅に少なくなったからである。

また、人工知能やネット社会の発達で、知性も知識も知恵も一般人にとってはあまり必要でなくなり、そのような「オバカチャン」を肯定してくれる社会になったからである。

無理して本を読んだり、小難しいことを考えたりすることを無意識に強要される時代がついに終わったからだ。

ゆえに「楽しみがなくなったらハイおさらばよ」と生に固執する人も少なくなり、ある意味健康な「野生動物的精神世界」に変わったからである。

衆愚ゆえに幸福、いや幸福という言葉はたぶん野生動物と同様に必要なくなったのだ。

このアナザーワールドでは、ついに「ポスト人間中心社会」が始まろうとしていた。

ノボノボ童話集
 →「無敵の鎧」
 →「妖怪ワケモン」 
 →「森の言葉」
 →「究極の薬」
 →「アキレスと亀」
 →「宇宙への井戸」
 →「思いがけない幸せ」
 →「本屋の秘密」
 →「美しき誤解」
 →「サンタの過去」
 →「車のない未来」
 →「恐怖のミイラ」
 →「一番暖かい服」
 →「沈黙は金」
 →「素晴らしき嘘」
 →「未来から来た花嫁」
 →「未来のお化粧」
 →「幸せのタイミング」
 →「夢を描く画家」
 →「忍者犬チビ」
 →「窓ごしの二人」
 →「超電池社会」
 →「素晴らしき新人類」
 →「新しい名前」
 →「哀しき人工知能」
 →「三値のデジタル社会」
 →「人類史上最大の作戦」
 →「人工知能の帰還」
 →「人工惑星ゴースト」