ノボノボ童話集「えすえふ鳥獣戯画」

 小学生の頃、ウェルズの古典SF「モロー博士の島」を読みました。人間と野獣との合体話に恐怖を感じました。その延長なのか、成人してから「ツチノコ」が山道で私をにらみながら話しかけてくるという妄想にけっこう悩まされました。さまざまな生物が人間と同じように語れるとしたら、いったい何を話すでしょうか?

ノボノボ童話集

えすえふ鳥獣戯画

K氏はある日、「鳥獣戯画」の巻物を見ていた。

突然、絵の中からガラガラ声が聞こえてきた。

「おめえらはふざけてるよ」と。

びっくりして、近くに音声ガイドでもあるのかと目を泳がせたが、何もない。

再び絵に視線を戻すと、絵に描かれたヒキガエルがわずかに口を動かして声を発した。

「ゲゲゲ〜、おれたちゃ、おめえたちの次元にたたみ込まれている11次元の世界にいるんだよ」

「知性だって、やってることだって、おれたちのほうが上だってことを教えてやるぜ」

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K氏は夢でもいいと思いつつ、ヒキガエル氏の話を真剣に聞くことにした。

相撲を取り終えて一息ついたばかりのヒキガエル氏は、額の汗を水かきの手で拭いながらK氏に語った。

「おめえはブログとかで、人間とか生命とか自然とかが大事と能書きたれているそうじゃね〜か」

「それに、自由、平等、友愛、正義、公平、民主、良心、愛情、創造とかいう言葉も好きらしいな」

「ふん、何が人間的だ、良心的だ、民主的だ、何が女性差別だ、民族差別反対だ」

「そんなおまえらがやって来たのはわれわれの徹底殺戮じゃね〜か、それと地球っていう住処汚しとな」

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K氏はうろたえながらヒキガエル氏に答えた。

「まさか、あなたたちが私たちみたいな脳みそ持ってて、こんな話ができるなんて思いもしなかったもんですから。。。」

ヒキガエル氏は言った。

「それじゃおめえらは、脳みそイカレたり弱ったりした同類を、俺たちみたいに扱うってのかい」

K氏はうろたえながらも答えた。

「いいえ、もしかしたらその人の脳みそはまともに戻るかもしれないし、そうでなくたってお世話になったり、思い出があったりしますからね」

と言いながら、同時にK氏の心には暗い考えがよぎった。

(たしかにヒキガエル氏の言うとおり、普通じゃない人や手間がかかる人は生存不要と考える人や、そういう事件が増えてきているな〜)

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K氏の心を見透かしたように、ヒキガエル氏はあざけるような顔をして語った。

「そ〜〜ら見ろ、おめえらのきれい事は『砂上の楼閣』ってもんなんだよ、てめえたち同士の殺し合いも絶えないわけさ」

「それにマリアさんだ、おしゃかさんだ、なんとか教祖様だとか信じて自己陶酔してるようだが、そんな奴らの戦いほど低劣凶悪なもんはね〜よ」

K氏はおそるおそるヒキガエル氏に尋ねた。

「そう言われれば歴史はたしかにそのとおりですね。ところでなんで私にこんな話をされるんでしょうか。。。?」

ヒキガエル氏は、べらんめ〜っぽい江戸っ子口調で早口にたたみかける。

「フン、おめえたちが自分の化けの皮に気づいてきたからさ、ほらアメリカって国の頭領もずばりホンネで開き直ったらしいじゃね〜か。」

「つまり野生動物化して人間中心主義ってやつから脱線するかもしれない、そしたらそっちの世界にいる俺たちの同類にもいいだろうと思って、はるばる次元を超えて応援にきたってわけよ」

「そしたらおめえが偶然やってきたんで、まず感化してみっかと思ったってわけさ!」

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K氏はブログのいいネタになりそうだと感じた。

「ヒキガエル先生、人間中心主義でなくなったらいったい何主義になるんでしょう?」

「もうすぐ、おめえたちは人工知能にとって替わられるよ。それとともに俺たち下等生物は逆に繁栄していくんだよ。」

「なぜかって?それはおめえたちが俺たちの生き方を学んで、俺たちと同類になっていくからさ」

K氏の頭はぶっ飛びそうだった。これはきっと夢に違いないと思いたかった。

しかし、人間という生き物の性(さが)と言うべきか、好奇心も大いに湧きあがってきた。

「私たちが下等生物に学び、近づいていくって、いったいどういうことですか?」

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「おめえたちはきっと放射能まみれになる。その前にアレルギーで食うもんも乏しくなる。体は弱って軟体動物みたいになっていく」

「それを人工知能やら、メカやら、ネットやら、クスリやらで補おうとするが、ますます主役のおめえたちは弱って脇役が主役になっていくのさ」

「それに気づいた人間が、ゴキブリとかアリとかの昆虫に学んで変態していくんだよ。ゴキブリどもは何億年も環境の変化に適応して生き延びてきたんだぜ」

「それに植物になる人間も出てくるだろう。おめえたちは寿命延ばすために薬品やら作っているらしいがばかじゃね〜か。木を見てみろ。数千年生きてる木だってあるじゃねーか」

「そうそう鳥類もいいんじゃね〜か?ドローンだって不要になるだろう。ま〜細菌とかウイルスが最強ではあるけど、そこまではな〜」

「つまり、おめえたちが人工知能とかの僕にならないようにするには、下等生物に学び同類になるのがのぞましいってわけ。チャンチャン」

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SF好きのK氏は思った。

(これは五十数年前に読んだSF小説に似た話だ。たしかウェルズの「モロー博士の島」という本だ。マッドサイエンティストが人と野獣をくっつけた話だ)

(まてよ、もうひとつ似た映画もあったな。「フライ」だ! 瞬間移動中にマシンに入っていたハエと人間が合体してしまうという話だ)

(もしかしたら「人魚姫」は魚と人間のハイブリッド種で、遠い過去からひそかに存在しているのかもしれないな)

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ヒキガエル氏はこれで最後だと言いながらK氏に語った。

「いいか、よく聞け。おめえたち(本当は)下等な人間ってもんの、死んでも直らね〜癖っていうか、最大の特徴ってやつは、あくなき『好奇心』にちげ〜ね〜のさ」

「だから、ないものをほしがり続ける、作ったものはどんなものでも徹底的に使い尽くす。そして滅びてまた復活して同じことを繰り返す。だけど、いつまでも続くもんじゃね〜よ」

「滅びない方法ってのは、自分が作った自分より強いもんに負けないよう、自分自身が『変身』するってことに尽きるんだよ。ゴキブリになれば放射能だってへっちゃらだぜ、たぶん。パラダイムシフトっていうか、発想の転換ってのが大事さ」

しばらくして「鳥獣戯画」の声はだんだん低くなり、ついに止んだ。

K氏は納得しつつも暗然とした気持ちとなった。

(でもせっかくだからブログに書いておこう、その前に夕飯だ、腹へった!)

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