アームストロングの苦笑

 少しお堅い本の読書中に出会った「笑い話」です。人類初の月面着陸をしたアポロ11号の宇宙飛行士とアメリカ先住民の老人との物語ですが、「さもありなん」ですね〜。

ユヴァル・ノア・ハラリ著

「サピエンス全史(下巻)」征服の精神構造 P102より

 1969年7月20日、ニール・アームストロングとバズ・オルドリンが月面に着陸した。

 この月探検までの数ヶ月間、アポロ11号の宇宙飛行士たちは、アメリカ西部にある、環境が月によく似た辺境の砂漠で訓練を受けた。

 その地域には、昔からいくつかのアメリカ先住民のコミュニティーがあった。

 そして、宇宙飛行士たちと先住民のこんな出会いの物語(というよりは伝説)が生まれた。

 ある日の訓練中、宇宙飛行士たちは、アメリカ先住民の老人と出会った。

 老人は彼らに、ここで何をしているのか尋ねた。

 宇宙飛行士たちは、近々月探査の旅に出る探検隊だと答えた。

 それを聞いた老人はしばらく黙り込み、それから宇宙飛行士に向かって、お願いがあるのだが、と切り出した。

 「何でしょう?」と彼らは尋ねた。

 「うん、私らの部族の者は月には精霊が棲むと信じている。私らからの大切なメッセージを伝えてもらえないだろうか」と老人は言った。

 「どんなメッセージですか?」

 老人は部族の言葉で何かを言い、宇宙飛行士たちが正確に暗記するまで、何度も繰り返させた。

 「どういう意味があるのですか?」

 「ああ、それは言えないな。私らの部族と月の精霊だけが知ることを許された秘密だから」

 宇宙飛行士たちは基地に戻ると、その部族の言葉を話せる人を探しに探して、ついに見つけ出し、その秘密のメッセージを訳すよう頼んだ。

 暗記していた言葉を復唱すると、訳を頼まれた者は腹を抱えて笑い出した。

 ようやく笑いが収まったとき、宇宙飛行士たちはどういう意味なのか尋ねた。

 彼によれば、宇宙飛行士たちが間違えないように苦心して暗記した一節の意味は次のようなものだった。

 「この者たちの言うことは一言も信じてはいけません。あなた方の土地を盗むためにやって来たのです」