思わぬバーチャル・リアリティー

 白黒写真とカラー写真はまったくの別物であると思えてきました。白黒写真だからこそ伝わるものがあります。さらに白黒のほうが想像力を刺激し、より深い臨場感につながる気がします。往年の名作映画にも通じることですよね〜。

『詩集ノボノボ』より

思わぬバーチャル・リアリティー

 白黒写真とカラー写真はまったくの別物だ

 写真の本質が宿っているのは白黒写真のほうに違いない

 そう思うようになったのは、ここ2か月くらい前からである

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 父が亡くなったのは2か月前

 しかし、もう半年は過ぎている感じがする

 週に数日、主なき実家の仏壇に線香をつけお経をあげる

 ついでに遺品の整理をちょこちょこしている

 几帳面で写真好きで捨てない性格だったせいで

 父の遺品は行くたびに新発見がある

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 なかでも写真は様々な場所で見つかる

 その数は合わせて数千枚、三分の二は白黒だ

 白黒写真は色あせず、落ち着きがあって、とても見やすい

 父が小学校の頃や兵隊のころの写真も見つかった

 教師だったので、生徒や同僚先生たちとの写真も多い

 私たち家族の写真は孫、ひ孫にいたるまで

 父の親や親せきの写真もたくさんある。

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 はじめてみる写真が多く、その状況は新発見だらけだ

 後悔の念がわいてくる

 いったい俺は、父のことをどれほど知っていたのか。。。

 若き日の精悍で男らしい父の体躯や顔

 やがて頭髪も薄くなり、好々爺の姿に変わっていく

 まるで4,5人の異なる人物が生きていたように思えてくる

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 さて、なつかしき白黒写真を大量に見ていると

 脳内にある現象が生じてくる

 複数の写真がひとつの時空間のなかで統合し

 現実のような光景が、私の周りに現れてくるのだ

 父の一生が自分の経験のようになり

 父の生きたそれぞれの時代の中で

 私が父となって生きているように感じてくるのだ

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 その時空間は最初白黒のままである

 しかし目を瞑り、しばらくその世界に佇んでいると

 しかるべきところには色が表れてくる

 白黒写真ゆえにかえって想像力が刺激され

 脳内で臨場感が増していくのだろう

 これは脳が生み出す「バーチャル・リアリティー」だ

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 一週間前、高校の同期会があった。

 ホームページを管理している私は

 当日の写真をアップし、何回も見た

 さらに46年前の高校卒業アルバムを見た

 白黒の卒業アルバムである

 先生方の知的な面立ち、斜に構えた私たち

 フォークソング全盛時のなつかしき後夜祭・・・

 ここでもバーチャル・リアリティーが生じてきた

 私たちが生きてきた時代が

 奔流のように、脳に押し寄せてきたのだった

 →ノボ村長の「詩集ノボノボ」