エイリアン・プラネット

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ショートSF

エイリアン・プラネット

 西暦2119年、宇宙歴史天文学者ブライアン・メイヤーは、地球軌道を廻る深宇宙探査ハッブル第三望遠鏡の画像を解析していた。9月30日、彼はくじら座M77銀河周縁のごく一部に微少な渦が特異的に生じていることを発見した。まるで周辺の微少な星を吸い込んでいるように見えた。解析の結果、それはブラックホールとは異なるものだった。


 それから3年後、ブライアンは実に大胆なある仮説を発表した。それはM77銀河ではなくわが天の川銀河団の歴史、さらに地球と我らが先祖についての驚くべき物語であった。「この地球はエイリアン・プラネットである」と彼は語ったのだ。

 

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 21世紀以降の主に小惑星探査機の成果により、地球誕生については、百年前に多くのことが判明していた。その頃に判明した地球の歴史は以下のとおりである。


・約47億年前、天の川銀河団は他の銀河団と衝突し、多数の星々のかけらが生じた

・星のかけらは互いの引力により集まり徐々に大きくなり微惑星となった

・その後も大小の星々と衝突し惑星となっていった。これが元始地球である

・やがて元始地球は火星程度の惑星と衝突して分裂し、月が生じた

・大衝突のエネルギーで地球は高温となり岩石成分が溶け、灼熱の惑星となった

・灼熱の地球ができた後、水分を持った隕石が2億年にわたって地球に衝突した。

・そのため海洋や大気が生まれ、地表は冷えてきた

・しかし内部は圧力が高く温度が数千度にもなり、岩石や鉱物の一部が溶けた

・溶けた成分が地表の下に押し込められ、マントル層の一部となった

・重い物質は沈みこみ、「地殻」「マントル」「核」の層に分かれた

・外核は「鉄の海」、内核は圧力により「鉄の固まり」となった

・「核」が鉄であることによって磁場が生じた

・その強力な磁場がシールドとなり生命にとって危険な「宇宙線」を減殺している

 

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 ブライアンの仮説はこうだ。「宇宙生命体であるエイリアンは想像を絶する長い時間をかけて、宇宙の様々な場所で宇宙船を建造している。その宇宙船とは星自体なのである。くじら座M77で観測された渦もまさにそれである。そこは彼らの宇宙造船所のひとつなのだ」


 この天の川銀河団においてもエイリアンは宇宙船を建造した。それがわが地球なのである。長い時をかけて鉄を多く含む隕石を地球に衝突させた。鉄は地球の中心に沈み込み圧力によって固まり、宇宙最強の防御装置ができあがった。地球の中心にできあがった鉄の核は強力な磁場を発生し、宇宙線を防ぐ電磁シールドとして宇宙船地球号を守ることができた。 

 

 やがて、二億年もかけて水を含む隕石や小惑星を衝突させたが、これは乗組員と彼らの居住区域をつくるためであった。水を含む隕石には地球生命の母体となる炭素を中心とした数種類の原子の鎖を埋め込んでおいた。その種子から乗組員の先祖が産まれた。

 

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 最初の生命は原始地球の海底に生じた巨大自然ウラン原子炉間歇泉の「るつぼ」のなかで40億年前に生まれた。無限ともいえる原子の組み合わせから多様な分子が生じ、やがて脂肪酸による「膜」構造が偶然生まれた。生命はこの「膜」にこそ起源があるらしい。それは外界から内部を守る細胞膜となった。


 るつぼの中ではさらに様々な分子が結合しアミノ酸がつくられた。やがて原始RNAそしてDNAが細胞膜のなかで生じ、同じく細胞膜内で生じた他の器官とともにエネルギー代謝、自己複製を「膜」の中で安全に行えるようになり原始生命体が生まれた。最初の生命体は、剥き出しの核だけの原核生物というものだが、やがて細胞膜の中に核膜という二重膜構造ができ真核生物が生まれた。


 何億年もの時間の中で、異なる細胞同士も共生をはじめた。それが私たち動植物の細胞のもとになったのである。共生にもっとも大きな寄与を果たしたのは、エネルギー生成器官であるミトコンドリアと葉緑体であった。葉緑体を持つ細胞は植物へ分化していった。

 

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 この宇宙船は、やがて自身の電磁シールドを利用して、深宇宙への宇宙船になるというのである。失う太陽エネルギーの代わりに地球内部のエネルギーを用いるのである。新たな太陽とめぐり会うまで。

 

 深宇宙旅行の間、乗組員となる生命体は地表を離れ、深海や深い地下にコクピットを移すことであろう。深宇宙への推進力は、四十数億年前と同じように、別の銀河団の接近による引力を含む時空の変化である。


 しかし、乗組員が人類とはまだ決まっていない。四十数億年前に小惑星の衝突によって蒔いた生命の種子は未だ進化の途中なのである。もしかしたら昆虫や微生物、あるいは植物の子孫がクルーとして任命されるかもしれないのだ。


 ブライアンにはこのような疑問をぶつける者もいた。「なにゆえ全知全能に近い宇宙生命体が、驚くべき時間をかけ、卑小な生命体に深宇宙探検をさせる必要があるのか」と。

 

 ブライアンはこう答えた。「たぶん、全知全能の存在であっても、自分自身の裏側を知ることができないからではないか。自身の身体に生じたブラックホールという穴の向こうを自分で覗くことができないからではないか」


 さらに彼はこうも語った。「彼らは宇宙の様々な星系で宇宙船となる星を造り続けている。それは、地球の大航海時代に未知の大洋に出帆した船のように、還って来られる船が少ないことを知っているからではないか」「もちろん想像に過ぎないのだが、私たちは宇宙生命体とどこかでつながっている種子ゆえ、決して的外れではないと思う」


 宇宙船の様子、そして乗組員候補生である人類はじめ各種生命体を観察するため、宇宙生命体はわれらになじみのある物体の姿を借りて時々視察に来ているらしい。それが、私たちがエイリアンとよぶものの正体であり、妖怪などもその一種である。しかし、私たちはもともと宇宙船地球号の乗組員候補として地球に送られたエイリアンそのものなのである。そして地球もエイリアン・プラネットなのである。

 

 私たちが人間の感覚とは桁外れな宇宙の果てまで観測の触手を伸ばせること、想像を超えた異次元、多次元世界について構想できること、人類の能力をはるかに超える知性体を創造しつつあること、これらは大海へ乗り出す前の初歩的な予習をさせられているに過ぎないのである。


 何億年先になるかまったくわからないが、わが地球は深宇宙ブラックホールに向けて帆をあげるマゼラン大船団になるのであろうか。それとも。。。

 

(参考) 

全地球史アトラス1 地球誕生