「寅さん」と「北の国から」

 寅さんブームが静かに接近中らしいです。それはあの「帽子」や、だぶっとした「ジャケット」から。ブームは20代の女性で起きているらしいんです。先日のNHKニュースで放送されていました。
 そういえば、最近の若い女性シンガーは寅さんチックな帽子をかぶっている人が多いですね。 JuJuとかSuperflyとか・・・。他にも見た気がします。ジャケットのほうも似たような感じのものを着ている人が多いですね。

 東京では、女性向けの寅さんファッションのセミナーなんかもあって盛況らしいです。

 寅さんブームは「ファッション」のブームではなく「寅さん的感性」のブームのように思いました。

 それは、「自由に生きる」「富を求めない」「情緒や感性を大事にする」「人と温かく付き合う」などです。

 そのシンボルがあの帽子とジャケットなのでしょう。

 実に歓迎すべき流行だなと、私は思いました。

 私も今はすっかり(まともそうな?)大人になりさがってしまいましたが、青春の短いモラトリアムのころは、カウボーイハットに草履、オヤジの使い古しの背広の上衣を着て、訳の分からぬ何かをユニークな格好で主張していたものです・・・・(「イチゴ白書をもう一度」みたいですな。チョッピリ)

 もうひとつ、朝日新聞には倉本聰さんのこんなインタビュー記事が。

 『倉本聰さんに聞くTPP 北の国から考える』より抜粋しました。

 ――そういえば、「北の国から」で田中邦衛さんが演じた黒板五郎も農業をしていますね。

 「ええ、カネがかかってないでしょう。黒板五郎のやっていることは。あの人、税金払ってないんですよね。その代わり生活保護を受けることも年金をもらうこともないのが当たり前だと思っているわけですよ。そこまで徹底しているんです。これは僕の理想なんだけれど、そこまでいけないから黒板五郎に託したわけですよ」

 ――倉本さん自身も、土をいじるようになって変わりましたか。

 「そりゃ、変わりますよ。まず、毎朝起きた時に、天気が心配ですよね。窓を開けた時に、今日は冷えているな、とか。今日はぬるいなとか。雲を見てどっちに流れてるかな、今日は崩れるな、とか。うちの近所で十勝岳がちょっと出ると見えるんだけれど、十勝の雲が上にあがっている時は晴れる、山沿いに下がっている時は崩れてくる。習慣になっちゃってますよ。畑の手入れがありますからね。冷え込む日に霜対策をしなかったら、1年分の収穫がパーになっちゃう。自分の力が及ばない自然を相手にすると、人間は変わりますよ」

 ――畏敬(いけい)の念が生まれると。

 「生まれますね。自然を統御できるなんて、思い上がりですよ。なぜ、経済って、こんなに偉くなっちゃったんですかね。日本は確かに経済大国になった。でも、日本というスーパーカーに付け忘れた装置が二つあると思う。ブレーキとバックギアですよ。みんながブレーキをかけることを恐れ、バックは絶対しないと考えている。前年比プラス、前年比プラスと、ひたすらゴールのないマラソンを突き進んでいる」

 ――日本は畏(おそ)れを知らない国になっている。
 「ええ。日本は、小国でもいいから尊敬される国を目指すべきじゃないですか。私はかねがね、ブータンが一つの理想だと思っている。ブータンの国王が先日、来日しましたよね。国王の姿を見ていると、実に素朴で、田舎の村長みたいだけど、日本人より人間の格が上だという気がするんです。王様の爪の中が見たかった。土で黒いんじゃないかって気がしたんですよね」

 ――今の社会や経済のシステムと、その延長線にあるTPPは受け入れ難いですか。
 「高校生のころ、本当にうちは悲惨な状態だったんです。そういう時におふくろがお年玉でくれた500円札は、どうしても使えなかった。他の500円札は使えるんですよ。でもおふくろの500円札は、500円を示す紙切れじゃなくて、もっと大事なものとして自分の中にはあるわけですよね。愛情が注がれているから価値が上がってくるんですね。その部分をTPPも今の政治も忘れちゃいないかって気がします」
 「TPPって、危機に陥っているユーロ圏と、どこか似ていませんか。最近の混乱は、通貨の統一と同時に、思想も民族性も一つにできると錯覚したところに問題があったと思うんですよ。ブータンはブータンで認めて、日本は日本の生き方を認めて、そのうえで互いに助け合う。それが、これからの人間の英知なのではないですか。そういう気が僕はするんだけど。間違ってますかね」

 「寅さん」と「黒板五郎」二人に共通するのは何でしょうか?

 それは「群れない人」「自分の人生を自分でしっかり選んで生きている人」「お金に脅かされない人」「真の豊かさを求める人」といったところでしょうか。

 これって、考えてみれば「お釈迦様」や「孔子」や「ソクラテス」の生き方とエラク似ていますよね。目をこすって、もう一回世の中の様々な人やことを見直さなくては!

 引き合いついでですが、それにしても不思議です。「お釈迦様」「孔子」「ソクラテス」、彼らはすべて紀元前5世紀頃の同じ時代に生きたんですね。インド、中国、ヨーロッパという離れた場所で。

 ここ数年、リーマンショックやら、3.11やら、TPPやら、大きなうねりに翻弄され続けている私たち。そんな中で「個人としての私」という意識が多くの人に芽生えてきたのだと思います。

参考
 寅さんとスウェーデン