ノボノボ童話集「驚きのタイムマシン」

 小四の孫が父親と今日ディズニーランドから帰りました。小一の孫娘のほうは行く前日にノロウイルスにやられ母親と留守番でした。もしかしてこんなとっておきのアトラクションもあったかな〜、なんていう一篇です。

ノボノボ童話集

驚きのタイムマシン

 ここはディズニーランド。

 クリスマスイブの今日に合わせて、

 とてつもない新アトラクションがOPENした。

 それは本物の「タイムマシン」だという。

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 その名を聞けばなつかしく思う人もいるだろう。

 「ザ・タイムトンネル」

 半世紀も前、「タイムトンネル」という

 外国SFテレビ番組があった。

 開発者はきっと私と同世代であるに違いない。

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 何万倍もの競争率から選ばれた100名が、

 今日、人類たぶん初のタイムトラベルを体験する。

 彼らは一週間前からディズニーランドに

 滞在させられていた。

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 さて、科学に関心がある人なら必ずこう思うだろう。

 相対性理論が発展したのか?

 熱力学の第二法則は崩れたのか?

 いやいや、そんな難しい話はいっさいなしで、

 本物のタイムマシンができたのだ。

 人の意識下において。

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 高度に発達したセンサーやVR技術が

 過去への時間旅行を可能にした。

 ディズニーランドに滞在した一週間、

 彼らは24時間あらゆる行動を録画された。

 その時点の温度や風や匂いなどの情報も含めて。

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 発達したバーチャルリアリティーは、

 大きなゴーグルなど必要としない。

 コンタクトレンズをつけるだけだ。

 それに音声や環境情報を脳に伝えるために、

 野球帽のような感覚器をかぶる。

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 さて、「ザ・タイムトンネル」に入る。
 
 暗いトンネルを10メートルほど進む。

 さ〜っと風が吹き、突然明るくなった。

 目の前には、見慣れたディズニーランドがある。

 しかし、そこにはもう一人の自分がいるではないか。

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 当の自分もその過去の場に生きているようだ。

 風も匂いも温度も湿度も、その日と同じだった。

 しかし、過去の自分はもとより、

 その過去にあるすべてのものに触っても、

 ただ通り抜けるだけだった。

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 そういえばこのような映画を観たことがあるぞ。

 そうだ!「ゴースト・ニューヨークの幻」だ。

 殺された恋人の男性がゴーストとなって、

 かつての恋人を悪人から守ろうとする。

 しかし、亡霊は現世に影響を及ぼせず、

 すべて通り抜けてしまうだけだった。

 しかし、生きている恋人は何かを感じる。

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 まさに同じようなことが起こった。

 今体験しているこの過去の世界でも、

 なにやら、もう一人の自分が何かの気配を

 感じているそぶりを示すことがある。

 ぜったいありえないはずなのに。

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 実はこのアトラクションの開発者も予想外だった。

 どうやらシステムを管理している人工知能が

 観客、つまり現在の自分の感覚を深読みして

 勝手に編集を加えてしまうらしい。

 膨大な過去データは上書きされ、

 新しい過去ができてしまう可能性が生じた。

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 過去が変われば未来も変わる。

 そのとおりだった。

 「ザ・タイムトンネル」を体験した人は

 過去の自分を他人のように見て、

 彼らの無意識に大きな影響を受けた。

 その結果、彼らの未来が変わった。

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 部外者の多くはこれを、

 単なる遊園地のアトラクションと言うが、

 実際に体験した人の中で、

 これが本物のタイムマシンであることを

 疑う人はだれもいない。

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 体験者の一人はこんなことを思った。

 かつて亡霊や幽霊とされてきたものは、

 実はタイムマシンで来た未来人なのかもしれない。

 この僕と同じように。

ノボノボ童話集
 →「無敵の鎧」
 →「妖怪ワケモン」 
 →「森の言葉」
 →「究極の薬」
 →「アキレスと亀」
 →「宇宙への井戸」
 →「思いがけない幸せ」
 →「本屋の秘密」
 →「美しき誤解」
 →「サンタの過去」
 →「車のない未来」
 →「恐怖のミイラ」
 →「一番暖かい服」
 →「沈黙は金」
 →「素晴らしき嘘」
 →「未来から来た花嫁」
 →「未来のお化粧」
 →「幸せのタイミング」
 →「リンゴ箱のもみ殻」
 →「ストーブ隊長」
 →「人生相談の達人」