青森の空と海に垂れ流し

 びっくりしました。福島原発の事故で放射能が海に流出したとか大気中に拡散したとかで大騒ぎなのに、なんと六ヶ所村では国のお墨付きでとんでもない量の放射能を垂れ流しにしていたなんて・・・柳澤桂子さんの「いのちと放射能」ではじめて知りました。
 まず動画で六ヶ所村再処理工場を見学しましょう。

 さて柳澤桂子さんの本については、先日のブログ「放射能はなぜ怖いか」で紹介しました。生命・生物の観点から放射能の影響とその怖さについて書かれた貴重な本です。初版は1988年なんですが2007年文庫版として復刻され「文庫版への長いあとがき」という章が追加されました。

 その中には、六ヶ所村の再処理工場で行われた怖ろしい事実が記載されていました。流出ではなくて合法的に大量の放射能を青森の海や空から放出していたのです。原子力村とはまったくのところ伏魔殿です。何が出てくるかわからない・・・

 そのようなさなか、二〇〇六年三月三十一日に六ヶ所村の核燃料再処理施設が試運転を開始した。

 再処理工場というのは、使用済み燃料を切り刻んで、硝酸溶液のなかに溶かして、使用済み燃料のなかにあるウラン(九四パーセント)、プルトニウム(一パーセント)、核分裂生成物(五パーセント)を分けて取り出すための施設である。

 このたびの運転では、十七ヵ月かけて、約四三〇トンの使用済み核燃料を処理して、四トン前後のプルトニウムを抽出する予定である。

 この目的は一パーセントのプルトニウムを取り出すことであるが、使用済み核燃料を切り刻み、硝酸で溶解した時点で、希ガスと呼ばれるガス状の放射能が大気中に放出される。代表的なものはクリプトン85である。事業者の日本原燃は、最初は希ガスの回収装置をつけるといっていたが、結局回収はできるが固定化ができないとして、これを取り付けないことになった。

 放射性の炭素14も大気中に放出される。海洋中には、トリチウムなどのいろいろな放射能が放出される。

 放射能の除去装置を設置することは経済的にあわないとして、真剣に開発に取り組もうとしていない。再処理工場は、「原発一年分の放射能を一日で出す」といわれている。

 原子力発電所では、施設の運転による公衆の被ばくについて、年間○・○五ミリシーベルト以下を目標とすることが指針で定められている。しかし、再処理工場では、線量を定める指針はなく、「合理的に達成できるかぎり低い」ことが求められているだけである。

 この原子炉から空へ放出される放射線は、クリプトンなどの希ガスを除いて年間四〇〇〇万ミリシーベルトである。これは五千七百人分の吸入摂取致死量に当たる。

 一方、海への放出量は年間三億三〇〇〇万ミリシーベルトで、これは四万七千人分の経口摂取致死量にあたる。

 二〇〇五年に、米国科学アカデミーは、低線量の放射線の影響について、世界初の大規模な疫学調査の結果を発表した。それによると、放射線被ばくは、低線量でも危険であることがわかった。

 これまで、低線量の被ばくぱ危険でないとの意見もあったが、この結果によって、その説は否定された。

 結局住民の健康よりも、原子力発電をスムースにおこなうことの方がたいせつなのであろうと疑いたくなる。

 二〇〇六年三月三十一日に運転を開始した再処理工場の建物のなかで、五月二十二日に放射線管理区域内で着る衣服に放射能の汚染が発見された。この衣服を着ていた作業員の排泄物から微量放射能が測定され、この作業員が、微量の放射能を体内に取り込んだと考えられた。

 六月二十四日にもふたたび、下請け作業員の被ばく事故が発生した。この作業員も内部被ばくを受けたと推定される。このときは、床も相当汚れたと考えられ、頻発するこのような事故に対する日本原燃の被ばく管理、安全管理のあり方が問われるところである。

 ところが、六ヶ所村再処理工場の安全管理体制の評価結果を青森県知事に報告するために県庁を訪れた日本原子力技術協会理事長・石川迪夫氏は「体内被ばくを皆無にするのは不可能だ」と語った。

 このようないい加減な気持ちで、原子力施設を動かすことはあってはならないことである。

 そのほかにも、使用済み燃料貯蔵プールの水漏れや高レベル放射性廃棄物の保管施設の設計ミスが見つかったが、国は施設を再点検させ、試験開始の決定を下した。