さよならノルマ

 会社の営業会議が今終わりました。今日私は思いきった方針を皆に伝えました。一人一人にノルマを課することはもうやめますと。そのほうがずっといい経営ができるはずと確信したからです。
 同じ考えの方がいらっしゃいますので代弁していただきます。アシストというコンピューターソフトを販売している会社のアメリカ人社長ビル・トッテンさんです。(今は日本国籍を取得しております)

ビル・トッテン著
「『年収6割でも週休4日』という生き方」より

 我が社は一年を3期に分け、4ヶ月毎に事業予算を決めています。予算の出し方は部門長や管理者が自分たちの部門、チームで使うお金をまず決めます。そして、これらの経費(人件費含む)をカバーするために、粗利益をいくら出せばよいかを決めていくのです。

 長年このやり方でやっていますが「利益は1円でも1億円でもかまわないが、たとえ1円といえども損失を出したらたいへんなことになる」と私はいつも部門長たちに言っています。アシストでは人件費を含むすべての支出を自分たちで上げた収益の中でカバーできるようにしています。それは万が一、収益でカバーできなければ銀行からお金を借りなければならないからです。

 言い換えると自分たちに必要な金額を申告させ、それをカバーする収益を上げなさいというのが私の唯一の指示であり、トップダウンで売上ノルマを課したり、もっと利益を出すよう督励することは一切ないということです。

 なぜ、トップダウンでノルマを課さないかというと、そのようなはじめに売上目標がありきでは、与えられたノルマを達成するために社員が不正直な営業をしたり、顧客へのサポートレベルが下がったりする可能性があるからです。

 私はいつも社員に対して、ただ単に上司の命令や指示を聞くのではなく、企業理念に反しないかぎり自分で考えて行動してほしいと思っています。たとえば、予算達成のために今すぐアシストの製品を売るべきか、それとも顧客の事情や抱えている問題を考えて、それを先延ばしする、あるいは他社の商品を勧めるべきか、そのように判断を迷ったときには、まず顧客のことを最優先してほしいのです。

 これは単なるきれいごとではなく、私自身の経験に基づいています。かつてアシストの社員が商品のメリットばかり説明し、顧客にとってのデメリットを一切説明していないということがありました。しかし、ソフトを導入した後に顧客にとってのデメリットが判明し、その顧客はアシストとの取引をやめてしまいました。つまり、目先の売上を追求するやり方は、リピートビジネスを根幹とするアシストの事業モデルにそぐわないのです。