求む!シルバー・クオリティー

 日本の製造技術はまだまだ世界一、だから携帯電話もこんなに小さくなったし、テレビもこんなに薄型に。だけど、お年寄りの使い勝手はますます悪くなるばかりです。
 私事で恐縮ですが、88歳になる私の父親は耳がとても遠く、本人ではなく、私たち家族の大きな悩みでした。

 携帯電話もこちらの声がよく聞こえないことが多く、重大なことは全く用を足せません。

 本人に何らかのストレスが生じている場合に、特に聞こえが悪くなります。

 重要なときに役に立たないのは、まるで3.11のときに、携帯電話が通じなかったのとそっくりです。

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 ということで、先日携帯電話につなぐイヤホンを買ってあげました。

 それを付けると確かによく聞こえます。

 ところが・・・

 イヤホンのon/offボタンがうまく探せない。さらに長押しがよくできない。

 それでは、聞こえにくいとき付けてと話したら、携帯電話の差込のカバーがどこにあるかよく見えない。

 見つけてもはずせない。

 はずしてあげたら、あまりに小さくてコネクターをうまく挿せない。
 
 挿せそうになったら無理やり反対に挿している。正逆がみえない。わからない。

 それで、あきらめました。。。

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 今度は昨日です。今までかたくなに拒否していた補聴器を試してみてもよいと言われたので、気の変わらぬうちにと思って、さっそくメガネヤさんに行きました。

 ま〜画期的ではないが、前よりマシにはなりそう、ということで付けてもいいということになりました。

 ところがです。

 電池は3日から1週間ぐらいしか持ちません。その電池があまりにも小さくて本人が入れられないのです。反対に入れて無理に閉めようともします。

 今度は、外では余計な音がうるさいので外したいということでした。

 ところが電源スイッチはないので、電池カバーを開けっ放しにしてoffにしなければなりません。

 それが忘れそうだし、開けたときに電池が落ちることも考えられます。さらに使うときに閉めるのを忘れることは十分にあります。

 本体についているボリュームも小さくて間違ってさわりそうだし。

 リモコンだと今度はそちらの管理も増えてなお大変。。。

 結局買うことにしましたが、電池のことをどのように管理すべきか、私のストレスがたまります。

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 昨日は、携帯電話でもっとお年寄りの使いやすいものが出ていないかとドコモショップにも行きました。


 今使っているのは、ドコモの「らくらくホン」なんですが、全然ラクでない!私なんかが使うと「らくでないホン」です。

 もっと物理的にシンプルで、機能もハード的に選択制で、大きさや操作性が「真の老人向け(脳、目、指が衰えている年代向け)」のものはないかと探したのです。

 ありませんでした。。。

 店には若い人だらけ。。。その世代のものばかり。老年人口はとても多いしニーズもとても高いのに。

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 思い起こせば1年半前、父から来てくれと電話がありました。

 何事かと思って行ったら、買ったばかりの液晶テレビの電源が入らなくなったというんです。

 そこで私は電源スイッチを探しました。

 見つかりません。。。

 ようやく10分後、画面のサイドに黒の地に黒の小さなボタンがあるのを発見しました。

 父だけでなく、シルバー予備軍の私にもこんな不自由が生じてきています。

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 今世の中は、思いやりだ、やさしさだ、と一億総ぶりっ子の世の中です。

 街にはゆるきゃら、かわいい系、感性系が満ち溢れ、日々何万もの新商品が出現しています。

 でも、その売り場にお年寄りの姿はどれくらいありますか?

 お年寄りがいても、うきうきした顔で眺めている人はどれだけいますか?

 ほとんどのお年寄りは、みなこう思っています。

 「私には使いこなせない。わからない。今のままでいい」

 つまり、お年寄り向け商品というのはありますが、ほとんどが見せかけのやさしさ、思いやりにとどまっているのです。

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 若者向けも年寄り向けも、ハードは同じ若者向けであり、ソフト側で調整しようとしています。そこに無理があります。

 そもそも人間にとっての道具とは「ハード」であり、そこに視認性やら手触りやら五感になじむものを工夫してきたはずです。

 それがいまやみなソフト化で、コストをよりやすく安易に作ろうとしていることが問題なわけです。

 真のデザイナーとは何か?

 今ある「かわいい」をもっと「かわいい」にすることよりも、己のデザイン力で、取り残されている人々に「笑顔」を与えることを本分としている人、と(昨日から)思いはじめました。

 私のしごとも同じようなことが要求されます。

 軽視され続けている「ハード」の工夫、それを「シルバー・クオリティ」としてお年寄りの役に立つものを探求する人々が増えてほしい。

 日本の最高の購買資源とは、お金は持っている、しかし買いたいものがない「お年寄り」層であることを強く認識したいものです。