これは私たちの住む世界の話ではありません。多元宇宙に数限りなく存在する別な地球のお話です。他人事なので笑ってお読みください。
宇宙の七福神
2013年春、大日本維新政府率いる新日本帝国はてんやわんやだった。
前年末の選挙で大勝した右派政党連合は、このときとばかり強硬路線をお得意の短期決戦で突っ走った。
彼らの言う「もらいものの憲法」は破棄され徴兵制となり、集団的自衛権やら先制攻撃法やら核兵器開発プロジェクトまで一気に成立したのだ。
常に敵国の軍事力より優位に立たねば意味がないという際限のない軍拡の道に踏み出した以上、遅かれ早かれ最終兵器まで持つのは理の当然であった。
さらにわが新日本帝国の脅威を知らしめるべく、宗主国のアメリカンローマ帝国から中古の原子力空母も2隻購入して、いづれも新日本海に就航させている。
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周辺の国々が黙って見ているわけがない。
2013年9月11日、尖閣、竹島、北方領土の三カ所が同時に外国軍に襲われた。
尖閣は真中華台湾国、大中華帝国連合軍に、竹島は南朝鮮軍に、北方領土はスターリン帝国軍に。
新日本帝国軍は多数の戦死者を出しながらも雄々しく戦った。
各国は敵国の原子力発電所を狙って弾道弾を発射し、そのうち何発か命中した。
今や、戦闘中のすべての国が一部又は全部放射性物質で汚染されてしまった。
しかし各国政府はメンツもあり、敗戦を国民に非難されることも怖れたため、戦闘は思いのほか長引いた。
各国の国民は国を守るため、けなげにも放射能被害に耐え続けていた。
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戦争(もはや戦闘ではなくなった)が始まって一年が過ぎた。
ある日突如、空に大きな船が現れた。
とてつもなく大きな、金色に輝くまばゆい船だった。
その船は、驚くことにどの国からでも見ることが出来たのだ。
その世界の科学ではとうてい説明できない現象だった。
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そして、太陽の光に輝く波頭のように、花びらに似た金箔・銀箔がきらめきながら数限りなく空から降りそそいできた。
シャラシャラ・・シャラシャラシャラ・・・シャラシャラ・・・
まるで金箔銀箔の金属飾りをつけたご幣束を神主が打ち振るときのような、柔らかい癒しの音色とともに。
金箔銀箔は日の光を多彩に反射し、ひらひらと空中を舞った。
得も言われぬうっとりした、まるで天国のような眺めだった。
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三日ほどその状況は続いた。
その間各国の軍隊は天空の船を相手の秘密兵器と思い、ミサイルや戦闘機で攻撃したが、レーダーには映らずまるで対処不能だった。
やがて、暫時停戦となった。
それを待っていたかのように、船は海面へと下降を始めた。。。
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皆がびっくりしたのは船の大きさだった。
とてつもない大きさであろうと思っていたのに、なんと、数十メートル程度の木造船のような船体だったのだ。
ところが不思議なことに、その船体がどこにいても数十メートル先に見えるのだ。
甲板に人影が現れた。
新日本帝国軍の空母では、乗組員が思わず両手を合わせた。
それは何と!宝船に乗った七福神ではないか。
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同じ時、中華帝国軍では船の甲板に、老子、孔子、孟子そしてその弟子たちの姿が現れた。
南朝鮮国軍に現れたのは、大乗仏教の宗祖たちであった。
スターリン帝国軍ではキリストの使徒やマリア様とおぼしき姿が現れた。
戦っていたすべての国のすべての兵士が手を合わせ、あるいは十字を切った。
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十数分もその光景は続いたろうか。。。
ほんの短い間の出来事だった。
船は再び空へと上昇し、やがてそのまま虚空へと消えていった。
ふと我に返ると、どういうわけか時はすでに夜になっていた。
今まで見たこともないくらい多くの星が天蓋を満たしていた。
だれも戦うことなど忘れてしまっていた。
そして思った。「なんて割が合わないことだろう。正義の戦争とやらは」
「死者だ、カタワだ、国土の汚染だ、子どもを産めない被爆だ。これほどまでにして守るべきものは何だったのか。。。」
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数年後、この日の出来事を経験した兵士たちが、口伝えで世界の人々に知らせようと布教、伝道の旅に出た。
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この世界では、この時以降数千年後に到るまでその口伝が読み継がれていた。
「聖書」「教典」「経典」という名を冠された書物によって。
それらの書物に共通して使われる言葉があった。
「謙虚」「抑制」という言葉であった。
この多元宇宙のわれわれと異なる地球では、その言葉だけで平和が保たれているのだった。
実にかろうじて。。。
宇宙の七福神が運んできた「宝」とは、その二つの言葉だけだった。