時間が伸び縮みした社会

 相対性原理の話ではないんです。江戸時代に使われていた「不定時法」という時刻制度のことなんです。
 知れば知るほど江戸時代の社会は興味深いことだらけです。

 あらゆることが、人と自然との調和システムなんですね〜。

 江戸時代の一刻(現代の約二時間)は季節に合わせて可変だったのです。

 時間の長さが変わらない「定時法」でいえば、日の長い夏の昼の一刻は冬の一刻よりも長いのです。

 その差は一刻でプラマイ五十分もあったのです。

 ただし毎日変わるのはさすがに大変だったようで、「二十四節気」に合わせて一年を二十四等分し、半月単位の時刻変化としていたようです。

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 『大江戸生活体験事情』では著者の石川英輔さんと田中優子さんが、「不定時法」にもとづいた「節板」とよばれる季節毎の時刻円盤を作成し現代の時計と組み合わせ、二年間にわたりそれを使って暮らした体験談を書いています。

 これが石川さんのつくった不定時法の時計です。

 不定時法では「明六ツ」、「正午」、「暮六ツ」の三つが基準となっています

 「明六ツ」は日の出のほぼ三十六分前、「暮六ツ」は日没のほぼ三十六分後です。

 昼は、明六ツから正午までを三分割、正午から暮六ツまでを三分割、合計六分割して刻を割り振ります。

 江戸時代の「時間」について、以前私は本を読んでもよくわからなかったのですが、下記の「節板」(円盤)を見てよくわかりました。

 なるほど、季節ごとに時刻が伸び縮みしているんですね〜。

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 田中優子さんの話です。

 このように、実際に不定時法を使っているうちに、次第に自分の身体も本当は人間の作った定時法のルールに従っているのではなくて、本当は太陽の運行に従って生きているらしいことがわかってきたが、考えてみれば当たり前の話だ。日本では、定時法になってから100年そこそこしかたっていない。無意識のうちに生活を定時法に合わせているものの、われわれの身体は、本当は不定時法に合わせて生きているのだ。

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 「不定時法」がいいのは次のようなことです。

 ・時計がなくても(昼の)時刻がわかる

 ・身体のリズムに合っている

 ・定時法と比べ照明や燃料が節約できる

 しかし、太陽が出ない夜の時刻はいったいどうして知るのでしょう?

 それは、植物のシキミの粉を乾燥させて線香にした「香時計」で時刻を測り、各地の寺院が一刻ごとに鐘をついて知らせたようです。

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 江戸時代は、生き物としての私たちが向かうべき未来をすでに先取りしていたようです。

 なにせ、もっとも効率よくエネルギーを消費するために、日々時間さえ伸び縮みした社会だったわけですから。