二年半前の新聞に「鬼退治したくない桃太郎」という記事があり、さまざまな紛争解決法について紹介していました。ご時世がら再見。
その記事とは「桃太郎と鬼、話し合いで和解 解決法考えるDVD製作中」というものです。
(読みやすいように小見出しを付けました)
朝日新聞 2011.10
桃太郎と鬼、話し合いで和解 解決法考えるDVD製作中
鬼退治したくない桃太郎が選んだ道は――。
創作話を通じて、もめ事を建設的に解決する方法を子どもにも伝えようと、若者たちがアニメDVDの製作を始めた。
両親の離婚や級友との仲たがい。製作は若者自身にとっても、争いと無縁ではいられない日常を振り返るきっかけになっている。
9月上旬、東京・神宮前のマンションの一室。
ウェブデザイナーの林綾美(リン・ルンミ)さん(27)と映像クリエーター渡辺健一さん(25)が、手作りの人形を動かしながら、デジタルカメラで撮影をしていた。レンズの先では、桃太郎と犬・猿・キジ、鬼たちが車座になっている。
アニメ「鬼退治したくない桃太郎」の一シーンだ。撮影した1万数千枚の写真を、パラパラ漫画のようにつないで絵を動かす。
製作は、映像ディレクター高部優子さん(43)が企画した。
当事者だけでなく家族、友人らが集い、長老を中心に対話を重ねるハワイの伝統的な紛争解決法「ホーポノポノ」(ポリネシア語で「曲がったものをまっすぐに直す」)を紹介する。
(イントロ部分の映像です)
習得可能な解決法こそが大切だ
高部さんは、戦争被害や戦後和解を主題に映画を撮ってきた。
戦争を起こさない方法を問われて答えられない自分に気づき、2008年から2年間、紛争を暴力によらず解決する理論を学ぶために大学院へ。
「暮らしのなかのもめ事や争いを当たり前ととらえたうえで、習得可能な解決法を伝えることが大切だ」と考えるようになった。
理論を踏まえ、在学中に仲間たちとシナリオを練り上げた。
物語では、鬼になぜ畑を荒らすのかをたずねようと、桃太郎が鬼が島に向かったものの、逆に出会った子鬼から、人間が石を投げつけてくる理由を問われる。
きび団子から突然「先生」が現れ、ホーポノポノの長老さながら、両者とともに和解を導く。
製作に携わるのは、20〜30代の約10人。
自分自身のつらい体験から
高部さんと旧知の林さんは、物語に自身のこれまでを重ねている。
過労で倒れた母と、病に理解を示さない父との家庭内別居を解消しようと、伝言役として2人の間を行き来した中学・高校時代。
親族が南か北かで分裂するなか、在日コリアンとして受けた生。
「どうにかしたいけれど、どうにもできない自分がいたことを、今さらながら感じた。落ち着いたら紛争解決学を学びたい」と話す。
大分県出身の渡辺さんは、1学年1クラスの小学校でいじめたり、いじめられたりしたことを思い出した。
「理論だけで現実のすべてがうまくいくとは思わないけれど、知っておくことが冷静でいるための心構えになると思った」
虫プロが賛同し具体化へ
DVDは計約25分の3話構成。
ほかの2話で、「私メッセージ」と呼ばれる対立を深化させないコミュニケーション術や、元オスロ国際平和研究所長が提唱した「トランセンド(超越)理論」に基づく解決の導き方も紹介する。
取り組みに賛同した「虫プロダクション」(本社・東京)が製作を支え、平和学や教育学の研究者、弁護士らが協力を呼びかける。
11月中に完成させる予定で、協力金(上映権付き、1万円)を出した人に、理論などを解説したブックレットと合わせて渡す。来年には「平和文化」(本社・同)からの出版も予定。問い合わせは、平和アニメーションプロジェクト(03・3403・1902)へ。(隅田佳孝)
長老を中心に対話を重ねるハワイの伝統的な紛争解決法「ホーポノポノ」(ポリネシア語で「曲がったものをまっすぐに直す」)とは、実際どのような紛争解決プログラムなのでしょう。
「ホーボノボノ」とともに「私メッセージ」「トランセンド理論」についての概要を紹介します。
【ホーポノポノ】(ハワイ流仲直りの仕方)
(1)当事者それぞれの立場から見て何が起きたのか、第三者を交えて照らし合わせる
(2)それぞれが意図的にした行為に目を向け、なぜ対立が起きたのかを探る
(3)できたはずなのにしなかった責任を分かちあう
(4)どのような将来を作りたいのか話し合う
(5)紛争の終結を宣言する
【私メッセージ】(対立を深化させない表現)
(1)主語を「私」にして自分の気持ちを素直に表現する。「○○してもらえると助かる」「○○されるととても悲しい」など
(2)「どうして○○なの」という「あなた」主語の話し方(あなたメッセージ)を控える
(3)提案と傾聴を意識する。
「○○して欲しいのに」の主語は一見「私」だが、「なぜ○○してくれないのか」という不満を伝える「あなたメッセージ」になっているので注意
【トランセンド理論】(対立点転換法)
当事者双方の間で妥協点を見いだすのではなく、第三者の仲介・調停によって新たな解決法を求めようとする考え方。
たとえば、2人がバナナ1本をめぐって争っている場合。バナナを半分にすれば2人とも食べられるが、満腹にならず不満が残る。
小麦粉を加えてバナナケーキにすれば、2人とも満腹になるし、バナナも味わえる
紛争解決には第三者が介在するというところがポイントのようです。
昔から喧嘩の和解とは「喧嘩両成敗」「三方一両損」でしたが、これは三者間関係が基本になっています。
ですから、紛争解決のためには二者間関係から三者間関係に早く移行することが重要に思えます。
国際関係にもお節介な大家さんとか、長老とか、そういった役が必要そうですね。
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トランセンド理論の「対立点転換」も魅力的な考え方です。
「未来志向」という場合がそれに近いのでしょう。
「歴史」「領土」「善悪」の問題を一旦棚上げし、双方に共通メリットが生じる別な問題に置き換える。
極端な例を考えれば、紛争地を逆に「若者の交流の場にする」「共同開発公社をつくる」というような転換でしょうか。
三方一両損ではなくて三方一両得といえるかもしれませんね。
魅力ある転換テーマさえできれば、人々の気持ちは明るい方へと動いていくはずです。
それが知恵というものかもしれません。
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とはいえ、平和的紛争解決法が一般的になるまで、どれだけの月日が必要になることでしょう。
最初から簡単に解決することも難しいでしょう。
それでも私たち人類が求めるべき紛争解決法は、これら「いくさ」以外の方法だけではないでしょうか。
どんなに非効率でも「殺し合い」よりずっとましと私は思います。
日本もそうですが、世界のおおかたの国が、同じ国民同士で殺し合いをしてきた歴史があります。
それを経て、今では少なくても自国民同士の殺し合いは(民主主義の国では)なくなりました。
その範囲を広げるべき時代が来ていると思うんです。どんなに困難でも。