うらやましい嫁こ

 方言は単なる言葉ではなく音楽や絵と同じものかもしれません。情感がとても伝わるからです。詩人(故)川崎洋さんが好きな方言詩をひとつ紹介します。
 詩人川崎洋(ひろし)さんは、著書『ことばの力』のなかで方言についてこのようなことを語っています。

『ことばの力』より

 ことばは生きているのだから、時代とともに変わっていくのは当然でしょう。

 しかし、いま一つ屋根の下に住むおじいさんおばあさんのことばが、孫には通じないことがある、という状態が日本の各地に見られます。

 明治以来の、日本語を統一しようとした無理の後遺症です。

 方言のことばそのものでなく、そうした表現に託されていた日本人の心根が、ことばといっしょに流されてしまったのではないでしょうか。

 捨てなくてもいいものまで捨ててしまった、変えてしまったのではないでしょうか。

 国を単位に物ごとを考える人たちの言うままに、急激な変化の波にあまりに安々と身体と心を任せてきたのではないでしょうか。

・・・・・・・・

 さて、川崎洋さんが好きだというつぎの方言詩はどこかユーモラスです。

 でも読んでいるうちに、私たちが失いつつある何かを感じてくるのです。


(母めし料理教室の時間 『ソトコト』より)

嫁 こ  斎藤庸一

たった一言申し上げやんす

おらに嫁さま世話してくれるだば

どうかこういう嫁こをお願い申しやす

気をもたせたり気をひいたり

さわらせたりよく見せっぺとしたり

喋ってばかりでハイカラが好きは御免でやす

丈夫な体でやや子生める腰をもち

子供がごっくごっくのめるおっぱいをもち

手首まあるく目は子供っぼく

遠いとこから おらを見ていて

おらが目えやると目をふせてしまう

がんばりできかなくて押しが強くて

それをしんにひそめて口には出さず

一俵の米を背負い

あいさついい声で おじぎつつましく

ぼろを着て色っぽく

馬にまたがり野をかけ草刈場にいけば

汗かいて三束より五束刈り

つみとった一輪の桔梗をお先祖さまに上げ

としよりにやさしく 己にきつく

誠にはや申訳もごぜえやせんが

たった一言がながなが語りやしたが

どうかお願い申しやす

いい嫁こを おたのみしやす。

    (詩集『ゲンの馬鹿』より)

※作者「斎藤庸一」は大正12年福島県白河市生まれ(故人)

 私たちが失いかけているものとは何でしょうか?

 それは「素朴な優しさと健康な体」ではないでしょうか。

 男女を問わず。

・・・・・・・・

 いまさらですが、「こんな嫁こ、おらもほすいなや〜」。。。