SONYと電気座布団

 アップルが横綱ならSONYの番付はどのへんでしょう?小結?十両?それくらい差が付きました。でも相撲の世界と同じように、返り咲きだって十分ありえます。創業期のあのまぶしい野性さえ取り戻せれば。
 三丁目の夕日の頃、急速にまぶしく輝き始めた明けの明星「ソニー」。

 今やその輝きはどこに。。。

 それは、日本全体の輝きが失われつつあることの象徴のようです。

 ソニーOBで元「VAIO」開発責任者、アレックス社長の辻野晃一郎さんはこう語っています。

朝日新聞3.14より抜粋

 ・・・今のソニーは新しいものをまったく生み出さなくなりました。活気が失われた大きな理由は、創業者の盛田昭夫さんと井深大さんがいなくなったからです。後を継ぐ経営者たちはどうしても求心力が下がり、リスクをとることや内部調整が難しくなる。

 例えば、音楽のネット配信を始めたのはアップルよりもソニーの方が先でした。だが、グループ内の音楽事業に配慮して著作権保護を重視せざるをえなかったため、使い勝手の悪い製品になってしまった。アップルのように経営者が強力なリーダーシップを発揮していれば、違う結果があったかもしれません。

 私は、ソニーとは企業ではなく、生き方だと考えています。ソニーの復活を望む人たちは、実は「従来の大企業に今後も日本を引っ張って欲しい。それに頼って生きたい」という画一的思考から抜け出せないのではないか。それは「ソニーな生き方」から最も遠いと思います。・・・

 SONY創業の頃のお話を、かつて私は「みんなの独創村」「先人の独走的な独創2」で紹介したことがあります。

 そこには、何もないところから何かを創造しようとした「実に小さな会社」「実に輝く人々」がいました。

「え!SONYが電気ざぶとん?」

 世界でもっとも有名な日本ブランドはと聞かれて「SONY」をあげる人は多いでしょう。そのSONYも、出発の頃はなんてお茶目な会社だったんだろう、とほほえんでしまう独創?製品がありました。それは少々危なっかしい「電気ざぶとん」です。

 以下、ソニー(株)のHP「SonyHistory 第1話 焼け跡からの出発」から抜粋してご紹介します。

 "電気ざぶとん"は、井深が考案した新円かせぎの冬向け商品である。これは、2枚の美濃紙の間に細いニクロム線を格子状に入れて糊付けし、これをレザークロスで覆ったものだ。

 石綿も、ましてやサーモスタット(温度を一定の範囲に保たせるための自動調節機構)といった気の利いたものは入ってない恐ろしげな商品である。さすがに、これには東通工の名前を付けるのは気が引けて、"銀座ネッスル(熱する)商会"という名を井深が付けたが、物がない時代だけにこれが売れに売れた。

 社員の家族総出で、ミシンをかけたり、コードをかがったりの下請け作業である。これによって新円を随分かせぎ、下請け代金を新円でもらった家族も皆大助かりであった。しかし、その分大事な毛布を焦がしたとか、ふとんに焦げ跡ができたという苦情も多く、電圧の上がる夜中など火事を起こさないかと作ったほうがヒヤヒヤしたものである。

 このほかにも、テープレコーダーのテープを自分たちだけで作ろうとしたときのこんな話も思わず笑ってしまいます。

 そのうちに、井深が狸の胸毛の刷毛(はけ)が良いということを聞き込んできた。果たして、上野・松坂屋の近くの刷毛屋に行ったら、ちゃんと置いてある。大枚800円をはたいて買った。テープを室内に長く張り巡らし、刷毛を持って走りながら塗る。人間コーティングマシンだ。

 しごとの原点はやはり出発点にあり。こんなに笑えるのもSONYの前身である「東京通信工業 設立趣意書」に「愉快なる理想工場の建設」という言葉があるせいかもしれません。

 設立式当日の井深の挨拶は、その"設立趣意書"に書いたことと寸分も違っていなかった。

 いわく、「大きな会社と同じことをやったのでは、我々はかなわない。しかし、技術の隙間はいくらでもある。我々は大会社ではできないことをやり、技術の力でもって祖国復興に役立てよう」

 資本金は19万円。機械設備とてない。お金や機械はなくても、自分たちには頭脳と技術がある。これを使えば何でもできる。それには、人の真似や他社のやっていることに追従したのでは道は開けない。何とかして、人のやらないことをやろう。この時から、既に東京通信工業の進むべき道は決まっていたのだった。

 1946年5月、左から盛田氏(当時常務26歳)と井深氏(当時専務39歳)


会社設立の目的

一、 真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設

一、 日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動

一、 戦時中、各方面に非常に進歩したる技術の国民生活内への即事応用

一、 諸大学、研究所等の研究成果のうち、最も国民生活に応用価値を有する優秀なるものの迅速なる製品、商品化

一、 無線通信機類の日常生活への浸透化、並びに家庭電化の促進

一、 戦災通信網の復旧作業に対する積極的参加、並びに必要なる技術の提供

一、 新時代にふさわしき優秀ラヂオセットの製作・普及、並びにラヂオサービスの徹底化

一、 国民科学知識の実際的啓蒙活動

経営方針
一、 不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置き、いたずらに規模の大を追わず

一、 経営規模としては、むしろ小なるを望み、大経営企業の大経営なるがために進み得ざる分野に、技術の進路と経営活動を期する

一、 極力製品の選択に努め、技術上の困難はむしろこれを歓迎、量の多少に関せず最も社会的に利用度の高い高級技術製品を対象とす。また、単に電気、機械等の形式的分類は避け、その両者を統合せるがごとき、他社の追随を絶対許さざる境地に独自なる製品化を行う

一、 技術界・業界に多くの知己(ちき)関係と、絶大なる信用を有するわが社の特長を最高度に活用。以(もっ)て大資本に充分匹敵するに足る生産活動、販路の開拓、資材の獲得等を相互扶助的に行う

一、 従来の下請工場を独立自主的経営の方向へ指導・育成し、相互扶助の陣営の拡大強化を図る

一、 従業員は厳選されたる、かなり小員数をもって構成し、形式的職階制を避け、一切の秩序を実力本位、人格主義の上に置き個人の技能を最大限に発揮せしむ

一、 会社の余剰利益は、適切なる方法をもって全従業員に配分、また生活安定の道も実質的面より充分考慮・援助し、会社の仕事すなわち自己の仕事の観念を徹底せしむ。

 黎明期のSONYと今のSONYに共通しているのは社名だけかもしれません。。。

 私は、SONYが創業期に会社の理念としてあげた「規模の大を追わず」という宣言こそ、これからの日本社会で最も大事なコンセプトになり得るものだと思っています。