先日私の実家がある町で1020万円のオレオレ詐欺が発生しました。みんな「なんて馬鹿な!」と非難します。しかし別の見方もあるのでは?
このオレオレ詐欺は次のような手口でした。
被害者となった75歳の女性に息子と名のる男性から携帯電話に連絡が入りました。
「オレ、風邪引いてる。電話番号も変わったから」
数日後、同じ男性から再び電話が来ました。
「会社の金を使い込んでしまった、なんとか助けて。宅急便でお金を送ってくれ」
すでに携帯に登録し直していた番号だったので、息子ということに疑いも持たず、書籍として宅配便で1020万円送ったというものでした。
2013.9.6
宮城県警遠田署は6日、宮城県美里町の一人暮らしの無職女性(75)が1020万円をだまし取られる振り込め詐欺の被害に遭ったと発表した。
発表によると、女性宅に4日、息子を装った男から「金銭トラブルで会社の2300万円を使い込んだ。少しでも現金を用意してほしい」と電話があり、女性は現金1020万円を指定された東京都内の私書箱に、書籍として宅配便で送った。翌日、息子の妻に電話し、被害に遭ったことを知った。
なんと馬鹿なことを!こんなことにだまされるなんて。。と百人が百人言います。
そしてそのように言った人の何人かも、やはり同じようにだまされているというのが実情のようです。
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私もなんてお馬鹿な!と思っておりました。
それで高齢の父がだまされないようにと、しばらく前から通帳や印鑑を私と父が別々に持つようにしていました。
ところが最近、別な思いを感じ始めてきたのです。
「いくら身内とはいえ、こんな大金を惜しげもなく与えてしまう老人の心って一体どうなってるんだろう?」
「ボケとか浅はかさとは違う何かもきっとある」と感じてきたのです。
それは、いざというときにわが身を捨ててもかまわないという「犠牲的精神」ではないかと思えてきたのです。
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いくらお金があるとはいえ、一人暮らしのお年寄りにとって一番の頼りは「お金」であることでしょう。
それを(誤った)一瞬の判断で、かなりの財産をなくす決断をしているのです。
自分一人で、誰にも相談せずに、ひっそりとそれを行おうとします。
もちろん一族の恥という意識も強いでしょう。
息子や孫のことが心配でたまらないということもあるでしょう。
だとしても、一瞬にして大きな損を自ら被ろうとする行動は特異なことです。
私はそこに「老人の心にある光と影」を見てしまいます。
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光も影も同じ心の光源から生じています。
「私は老化し人のお世話にばかりなっている、もう誰にも何にも役に立つことなどなくなってしまった」
「そんな無力な私が私一人の犠牲で身内を救えるのなら、何も迷うことなどない。助けてあげたい、役に立ちたい」
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私も一人暮らしの老父を毎日訪ねているので、上記のような思いを多くの老人たちが持っているだろうと感じるのです。
老人が昔のように大人数の家族で暮らしており、その中で何らかの役割をもち威厳を保っていられる環境なら、オレオレ詐欺はもっと少ないことでしょう。
多少の蓄えはある、しかし使いたい何ものもない、日々同じことをして過ごす毎日。
たまにデイケアセンターなどで笑ってくることあっても、それは一時的な気晴らし。
夕日を見ながら我がことに感じる寂寥感は、お年寄りなら誰もがぬぐいさることはできないのです。
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そんな晩年に身内のためになれるならこんな嬉しいことはない、と無意識に感じるのではないでしょうか。
他人のために行う無償の行為ほど、人が幸福を感じることはないと言われています。
現代の老人は、暮らしの中で「誰かのため」「何かのため」に役立っていると感じる機会がとても少ないのです。
そんなお一人様の老人が増えてきたことが、オレオレ詐欺の増加と関係があるように思えてなりません。
オレオレ詐欺は、軽蔑すべき問題ではなく、涙すべき問題であると思える今日この頃です。