ポーランドの偉大なSF作家故スタニスワフ・レムは私がとても関心を持つ作家です。原発問題が起きたときすぐにこの本「天の声」を思い出し再読しました。
難解な彼の文章は読む者にかなりの歯ごたえを感じさせるのですが、逆にそれが味わい深さにもつながっています。
直接原発とは関係のないストーリーなんですが、彼の思想には、善きこととされている人類の未知への挑戦本能、それはもしかしたら私たちの悪しき「業」なのかもしれないという観点があります。
地獄の冥王という意味の「プルート」を語源とする「プルトニウム」は、この本では遙かな宇宙からニュートリノで送られた暗号の成果物と同様に考えることができます。
時節柄、テレビに出てくる(御用)学者の顔なども思い浮かべながら重い気持ちで読み終わりました。
本の中からレムならではの慧眼的文章をいくつか紹介します。今日はその一です。
かりにキューリー夫人が五十年後にあなたが発見した放射線からギガトン爆弾が生まれ、「オーバーキル(過剰殺戮)」が行われるようになると聞かされても、おそらく彼女は研究をやめなかったろう。
もっともそんな恐ろしいことを予告されてショックを受けた後は、それまでどおり平静な気持ちではいられなかったに違いないが。
だが、われわれは慣れてしまった。
そして死体をキロトンやメガトンの単位で計算する者がいても、だれもその人間を狂人だとは思わなくなっている。
どんなことにも順応し、その結果ありとあらゆることを受け入れてしまうわれわれの才能は、人類のもっとも危険な能力のひとつである。
融通無碍な適応性を持った造形物が明確な倫理を持ちうるわけがないのだ。