ケストナー『合成人間』

 町にカギ十字の旗がゆれる1936年、児童文学者ケストナーは国内に踏みとどまりました。ナチスから追われ、執筆を禁じられ、作品が焚書のうきめにあう状況の中で『人生処方詩集』は国外で出版されました。

 日本にも、まもなくこの時代の序奏が聞こえてくるような予感がします。

 次に紹介する詩の最後の行「そこでわたしは四十歳の息子を一人註文した」、これが、今から心すべき私たちの弱さのような気がします。
 

エーリヒ・ケストナー
「人生処方詩集」より

合成人間

ブムケ教授は最近人間を発明した。
カタログによるとかなり高価だが
わずか7時間で製造ができるという
おまけにその人間は完成品として生まれるのだ!
このような長所は過小評価してはなりません
ブムケ教授はわたしにすっかり説明してくれた
わたしは最初の言葉と文句を聴いただけで
ブムケの人間は いくら高くとも それだけの値打ちはあるなと思った。

彼らは 性別にしたがって 髭かあるいは乳房というふうに
付属品を全部つけて生れる
ブムケ教授は 赤ん坊時代や青年時代を経るのは
時間の空費にすぎないという
なるほど それにちがいない

彼がいうには 弁護士の息子がほしい者は
ただ注文さえすればよい
法律上の難問題に通暁した 大学出の息子を
工場から 配達無料で オヤジさんの官庁に納めるという
そうすれば 寝不足な一夜の製品が
揺りかごと幼稚園の廻り路をして
卒業試験やその他をパスするまで
二十年も待つことは もういらない

こんな場合も考えられませんか 子供が馬鹿か病身かで
世間にも 両親にも 使い途がないという
さもなきア 音楽好きかなんかで!
両親に音楽の理解がなかったら
喧嘩の種になるばかりです

最初のかわいい赤ちゃんが 後日どうなるか
本当に判る者はいますまい ねえ そうでしょう
ブムケのいうには 娘でも 父親でも ご註文次第
彼の製法はいちども失敗したことがないのだと

最近彼はその人間工場を拡張しようとしている
今でもすでに219種類納めているという
不良品はむろん返品に応ずるそうだ
それらはもういちどいろんな蒸留器にぶちこまねばならぬのだと

わたしはいった。 その完成品には
ブムケの産院で生れた それらの人間には
たった一つキズがありますね
彼らは一定で 自己の発展がないでしょう
するとブムケはいった 「それこそまさに合成人間の長所です」と

君はしんじつ自己の発展ということを そんなに重要だと考えますか?
ブムケ教授は厳粛な調子でいった
彼の額には一本の深いしわが現れた・・・
そこでわたしは四十歳の息子を一人註文した

参考
 発想のヒント
 元気だそうよ!高校生
 ケストナーと美智子様