店の名

 少しホッとしたいなと思いました。今日は慌ただしい日だったので。本棚にある茨木のり子さんの詩集から小さなほんのりとした一編を。
 どんなものにも名前があります。というより、どんなもの、どんな人、どんなことでも「名前がついてそれが在る」ですね。親が子どもに名前を付けるときの気持ちを大事にしたいものです。

茨木のり子「倚りかからず」より

店の名

<はるばる屋>という店がある
インドやネパール チベットやタイの
雑貨や衣類を売っている
むかしは南蛮渡来と呼ばれた品々が
ひしめきながら ひそひそと語り合っている
 ーはるばると来つるものかな

<なつかし屋>という店がある
友人のそのまた友人がやっている古書店
ほかにもなんだかなつかしいものを
いろいろならべてあるらしい
絶版になった文庫本などありがたいと言う
詩集は困ると言われるのは一寸困る

<去年屋>という店がある
去年はやって今年はややすたれの衣類を
安く売っているらしい
まったく去年も今年もあるものか
関西らしい商いである

何語なのかさっぱりわからぬ看板のなか
母国語を探し探しして命名した
屋号のよろしさ
それかあらぬか店はそれぞれに健在である

ある町の
<おいてけぼり>という喫茶店も
気に入っていたのだが
店じしんおいてけぼりをくわなかったか
どうか

参考(茨木のり子さんの詩を引用してあるブログです)
 久しぶりに茨木のり子さん
 人生の季節
 倚りかからず
 ロートル・ネット・シンドローム
 「鍵」を探し続ける日々
 年々かたくなる、からだと心
 ふと心をうたれた詩