貧・望太郎はいったん江戸へ帰ることになりました。彼がいる間に「大江戸ハイブリッドタウン」の青写真を描いてみることにしました。
江戸からの手紙
満月の夜にしか届かない「時空メール」。朝起きたら日向子さんから届いていました。こんな文面で。
「ノボさん、お元気?ボウタロウは聞くまでもなく元気だとわかってますが。ところで申し訳ないんですけど、ボウタロウをいったん江戸へ帰してもらえませんこと?」
きれいな筆文字だが、私でもしっかり読めるのは、やはり日向子さんがこちらの世界から江戸に渡った時空トラベラーだからだろう。ところどころに季節の江戸の風景をイラストで描いてくれている。
手紙はこう続く。
「江戸時代といっても300年間も続いたんですよ。私は江戸時代の中の各時代を時空トラベルしてるんです。そして、今幕末。この動乱期、ボウタロウにお手伝いしてもらいたいことが山ほどできちゃって・・・よろしくね!」
私はボウタロウにこの手紙を見せた。
「ノボさん、日向子あねごの言うことには、ワシ逆らえないし・・・。あさって旅立つよ。それまで何か一緒にまとめようや」
寛平ちゃんそっくりの細い目は少しさびしそうな感じもした。
大江戸の大風呂敷を広げる
私ははらを決めた。(よっしゃ、プリウスのように、現代と江戸のハイブリッドをひねり出すぞ!ボウタロウの感性を借りて)
「ボウタロウ帰るまで忙しいぞ!飯をたらふく食っておけよ。一緒に『大江戸ハイブリッドタウン』を描き上げるんだ!」
「ひえ〜!飯食い過ぎたら眠くなりゃせんかな?ま〜がんばりますわ」
私は何か具体的なたたき台はないものかと思案した。
突然思い出した!きのう小栗教授からメールが来てたのだ。
小栗教授は、「人と車の安全で幸せな共生」を考え、そのシンボルとしてソフトカーを利用した新たな街作り構想を考えていらっしゃる方だ。そしてここ被災地石巻でその実現プランを構想中なのだ。私も私の書くこのブログがきっかけで教授と知り合い、ともに考えているのだ。 「まちと命を守るソフトカー」
「よし、ボウタロウ、この石巻にどんな新しい街をつくれるか考えてみようじゃないか?江戸時代の良さを組み合わせた街をな。破れ穴だらけの大風呂敷になるだろうが、穴は後から縫えばいいさ」
ボウタロウは細い目をあちこち動かし何かを探している。
「ボウタロウ、そうじゃないんだ。ホントの風呂敷じゃないのさ。アイデアをぶちまけるということのたとえなんだよ。まったく・・・」
料理の材料をそろえる
どんな材料からだって料理は作れる。あるものを利用してアイデア出すのは料理と同じで、いちばん難しいけどいちばん楽しいのだ
さて材料はと・・・最近、私が書いたものだとこんなものがあるな。
「お年寄りと子どもだけの商店街」
「トトロの住む家と街づくり」
「街全体がわが家の庭」
それと極めつけはこれだ!
「2051年のマルコポーロ」
小栗教授の構想を支える石巻の方が先生に提案したこんなアイデアもある。
ソフトタウン.txt
さ〜!ボウタロウ、いっちょうやるか!
「ノボさん、待ってくれよ。ワシ食い過ぎて眠い〜〜。少し昼寝させてくれ」
やれやれ。。。
大江戸ハイブリッドタウンのコンセプト
「ボウタロウ、街のコンセプト、つまり特徴というか考え方だな。それをまず決めよう」
私はカレンダーの裏に大きくマジックで書き、壁に張りつけた。
1.子どもが安心して外遊びできる
2.となり近所と親しくできる
3.様々な世代で交流できる
4.安全な食べ物が手に入る
5.自営の商売が成り立つ
6.災害に強い
望太郎がそれを見てしばし考えこう言った。
「うん。これはすべてワシの長屋住まいでできていたことだぜ。いいんじゃないか?でも、もうひとつ足したいな」
「なんだいそれは、ボウやん?」
「それは『ゼニがなくても何とか暮らせる』ってことさ」
私は意表を突かれた気がした!
「ありがとう、ボウタロウ。結局はそれなんだよな。街に人が集まって暮らすほんとのわけは。さっそくつけたすよ。あまり誤解されないような言葉でね」
7.住民同士の助け合いのしくみがある
街の青写真
さてと、コンセプトはできた。今度はイメージパースだ。みんなが「なるほど、こんな具合になるのか」と一見してわかるやつだ。
私も望太郎も絵を描くのはあんまり上手じゃない。それで言葉で表すことにした。後で煮詰めて、私の仲間のデザイナーに描いてもらおう。
街の風景
その街の中心部には小高い山がある。子どもの冒険場所だ。その廻りは住民の共同(レンタル)菜園がある。お年寄りが農作業のアルバイトをしている。
菜園の周りを囲むように樹木公園や保育所や図書館、授産施設、老健施設、企画店舗スペース(希望者に格安で貸す)がある。
その廻りに住居スペースが区画されている
道路にはわざと少し起伏があったり、曲げてあったり、人工的に何カ所か「路地裏」が作られている。
シェアハウスもはじめから数棟建てられている。このシェアハウスは共有スペースが充実していてとても魅力的だ。
それぞれのシェアハウスは、ライフスタイルについて共通した考えを持つ人々へグループ単位で賃貸される。一人当たりの家賃はとても安くなる。シェアハウスには店舗も2,3店作れるように設計されている。つまり「現代版ハイカラ長屋」だ。
この街では、近隣農家と安心安全な有機農法の米や野菜を契約している。
各住居には駐車場はない。これがここの大事な決まりなのだ。自家用車の共同駐車場は住居区域の外側にある。
この街の住民が出資して大手コンビニチェーンと共同経営する「地域多機能コンビニ」が管理センターを兼ねている。(そのしくみとイメージはこちらに書いています)
この駐車場にはもうひとつ充電センターがあり、そこには住民が自由にシェアできる「ソフトカー」が多台数用意されている。
この駐車場の屋根では太陽光発電や小規模風力発電がされており、街で売電し管理費用に充てている。この駐車場は防災センターの役目も果たしている。
街の交通
街には自家用車は入れない。それじゃ雨や雪の日はどうするのか?足が不自由な人はどうするのか?大きな荷物はどうするのか?
充電センタにあるソフトカーは住民が自由に使って良い。どこに乗り捨てても良い。定期的に「多機能コンビニ」の係の人が巡回し、連結して充電センターへ戻すしくみだ。
ソフトカーは街中の各エリアの特性に合わせて時速2キロから30キロまでの範囲で細かくスピード制限がかかる。それをコントロールするのはGPSであり、各道路に埋め込まれたパッシブセンサーである。
また、それらが壊れたとしても事故を起こさないよう、道路は少し曲げてあったり多少の凹凸があったりするのだ。
ソフトカーは多様だ。これからも必要に応じてオプションが住民のアイデアで増えていくことだろうが。
何よりもソフトカーは子どもたちが大好きで、これが交通手段としてだけでなく、子どもを通して隣近所とのつながり作りにも一役買っているのだ。
一人乗り、二人乗り、それらと組み合わせできるオプションが様々ある。
二人乗りには車体の縁を出っ張らせて、そこに足を道路側に乗せるようなかたちで気軽に腰掛けられる。荷物も後ろを平らにするか、荷物置き台をのせられる。屋根には雨の時だけ使えるような収納可能な幌が付いている。
各自動車メーカーも関心を持って視察に来ている。まもなく戦車のような車だけの世界は終わるだろう。
長くなってしまった。住民の助け合いのしくみ、自営が成り立つ根拠など、もっともっと書きたいが今日はここまでにしよう。もちろん望太郎が帰るまでにはきちんと二人で練り上げていく。そしていつかまた清書しようと思っている。
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数日後、江戸からの使者「貧・望太郎」は時空急便で帰って行った。
その後しばらく寂しかった・・・。
最近、幕末の頃の本を読んでいると、もしかしてこの人は「ボウタロウ」ではないか?と思うことがある。
彼は間寛平ちゃんに似ていたが、それは故あることではなかったかと今は思える。
間寛平ちゃんは世界を一周した。貧望太郎は時代を一周したのだ。きっと彼らは血族であるに違いないと確信している。