茨木のり子「私のカメラ」

 老若男女、春夏秋冬、いつでもカメラ、どこでもカメラ。ところが肝心の「写真」は少なくなる一方。。。あるのは、メモリーにいれっぱなしの「画像」だけです。
 カメラに頼らずに、自分の眼をカメラと思っていろんなものを見つめたら、きっと世の中の見え方は変わってくるような気がします。

 「人間カメラ」は最高のカメラです。

 だって、匂いも触感も味覚も音も、そして温かさも切なさも、み〜んな記録できるんですから。
 

茨木のり子『おんなのことば』より

私のカメラ

 眼
 それはレンズ

 まばたき
 それは わたしの シャッター

 髪でかこまれた
 小さな 小さな 暗室もあって

 だから わたし
 カメラなんかぶらさげない

 ごぞんじ? わたしのなかに
 あなたのフィルムが沢山しまってあるのを

 木洩れ陽のしたで笑うあなた
 波を切る栗色の眩しいからだ

 煙草に火をつける 子供のように眠る
 蘭の花のように匂う 森ではライオンになったっけ
 
 世界にたったひとつ だあれも知らない
 わたしのフィルム・ライブラリイ

参考(茨木のり子さんの詩やお話を引用してあるブログです)
 茨木のり子「落ちこぼれ」
 茨木のり子さんが好きな詩
 茨木のり子「木は旅が好き」
 お休みどころ
 みんな子供の頃があったんだよな〜
 大きい制服の新入生へ
 茨木のり子「球を蹴る人」
 茨木のり子「行方不明の時間」
 茨木のり子「友人」
 店の名
 久しぶりに茨木のり子さん
 人生の季節
 倚りかからず
 ロートル・ネット・シンドローム
 「鍵」を探し続ける日々
 年々かたくなる、からだと心
 ふと心をうたれた詩