徒歩は列車より速し

 ソローの『森の生活』を読んでいます。まるでイソップ話のような警句やたとえ話がいっぱいです。
 ソローは世界中のナチュラリスト、アウトドア愛好家、環境保護や生態系に関心の強い人々の間で、教祖的ともいえる人気を持つ人物です。

 彼は19世紀半ばのアメリカに生きた思想家、自然生活実践家であります。

 ボストン郊外ウォールデン池畔の森の中に約5坪ほどの小屋を建て、自給自足の生活を2年2ヶ月間送りました。代表作『ウォールデン-森の生活』(1854年)は、その記録をまとめたものであり、その思想は後の時代の詩人や作家に大きな影響を与えたと言われています。


(暖炉とチムニーだけで千個のレンガが使われているそうです。小さいけれどみすぼらしくない!)

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 という概要までは知っていて能書き垂れる私ですが、実は『森の生活』を読んだのは(読んでいるのは)今が最初なんです。。。

 なんで読み始めたかといえば、ソローは私が強い関心を持っている「スモールハウス」の元祖でもあるからでした。

 「鳥は歌いながら自分の巣を作る。人間が自分の家を自分で造れば鳥の巣がそうであるように、必ずや、詩的才能が発揮されるだろう」(ソロー)

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 それにしても面白い本です!

 実体験の記録ですから現実感がやはり違います。

 しかも、たった一人で家を建てほとんど自給自足の生活を送り、その経済的考察も丹念に書き記しているあたりは『ロビンソン・クルーソー』に近いものがあり、とても生き生きとした読み物となっています。

 この本を読んでいると「人間のために仕事がある」とは具体的にどういうことか、わかる気がしてきます。

 ソローはそれをヒントのようにして、文中にさまざまなたとえ話を入れています。

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 まだ三分の一も読んでいませんが、本からひとつご紹介。

 ある人が私に言う。「君は貯金もしていないのかい。旅行が好きなんだろう。今日にも列車に乗ってフィッチバーグへ出かけ、あの辺を見物してきたらいいのに」。だが私はもっと賢いのだ。いちばん速いのは徒歩の旅行者だということを、ちゃんと知っているのだから。

 私は友人に言う。ひとつ、君とぼくとどちらが先に着くか考えてみようじゃないか。距離は30マイル、汽車賃は90セント。これはほとんど一日分の給料だよね。ぼくはこの鉄道路線で働いていた工夫の給料が一日60セントだったころのことをおぼえているからね。さて、ぼくはいま徒歩で出発し、夜になる前に目的地に着く。以前に、その速さで一週間ぶっつづけに旅をしたことがあるんだ。

 君はそのあいだ汽車賃をかせぎ、明日か、ひょっとすると今夜あたりそこへ着く。うまいぐあいに仕事が見つかればの話だけれど。つまりフィッチバーグへ行くかわりに、君はほとんど一日中ここで働いていることになるわけさ。だからたとえ鉄道が世界を一周していても、やっぱりぼくのほうが君よりも先へ先へと進むことになると思うよ。おまけに、その地方を見物するというような経験を積む段になると、とても君なんかとつきあっているわけにはいかないね。

 まるでゼノンの『アキレスと亀』のような、あれっ?ていう話です。

 この後続く話を読むと、ソローはこう言っているのです。

 「・・・もっとましな時間の使い方があったんじゃないかな」

 乗車賃をかせいだ者、つまりそれだけ長生きした者が、やがて乗車できることは間違いないが、たぶんそのころには、旅をしようなどという元気も意欲もすっかり失せているだろう。

 こうして人生の価値が最低となる老年期に、あやふやな自由を楽しもうと、人生の最良の時期を金儲けに費やすひとびとを見ていると、まずインドへ出かけていってひと財産つくり、それからイギリスに戻って詩人の生活を送ろうとした、あるイギリス人のことを思い出す。

 この男はすぐさま屋根裏部屋へあがって詩人の生活をはじめるべきだったのだ。

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 そうなんですよね〜、と本を読んで理解はしても、パソコン叩く私はいつの間にやらもう還暦。

 意欲も体力も若いころの半分以下。。。

 さらにまずいのは、自由に生きるための「野生」「自然と暮らす知識や技術」がほとんどありましぇ〜〜ん!

 だからまぶしいんでしょうかね〜、ソローが神様のように思えます。。。

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 この本を読んでいると、ソローはインテリであるとともに大変な体力があったらしいことがうかがい知れます。

 先ほどの列車と徒歩競争の話にも、毎日45キロづつ一週間歩いた経験を話しています。

 それに森の小屋を建てる前に彼は、地下室を掘ったんですが、その大きさ縦横約2メートル、深さ約2.5メートルの四角い穴を一人でたったの二時間で掘ったというんです!

 しかし、ソローは厳しい登山やキャンプ旅行がたたって肺炎を患い、結核となり44歳で世を去りました。宮沢賢治と似た生涯であるとソローヴィアン(ソロー信望者)田淵義雄さんは『森暮らしの家』で書いています。

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 今四畳ほどの土地を畑地にしようと、日々土中の根っこと格闘している私にはソローの体力と自然知識や技術は驚異です。

 情けない私の現状ではありますが、それはそれ。また読み進みながら興味深い話を書き記し、己の励みにしていこうと思っています。

 余談ですが、「消しゴム付き鉛筆」ってソローが創ったらしいですね。(彼は鉛筆工場の息子でした。『森暮らしの家』で知りました)