2050年は江戸時代

 石川英輔著『2050年は江戸時代』は今から15年前、1998年出版のSF小説です。15年後の今、TPPやらでSFが少しづつ現実味を増してきています。
 現実味のみならず、この本に込められた問題提起や価値観も、その重要性を増している気がします。


衝撃のシミュレーション

 21世紀、物質文明の行きづまりから、日本は省エネルギー、完全リサイクルの江戸時代へと回帰していた。一日三時間働けば暮らせる晴耕雨読の生活。必要なモノは簡単につくれる自給自足社会。自然と共存共栄していた江戸の精神と豊かさ、楽しさをわかりやすく伝え、現代文明に警鐘を鳴らす衝撃の問題小説!

 小説の舞台は「桃園村」。まるで奥多摩のような自然が残る自給自足の村です。

 未来の江戸時代から見た東京時代(つまり現代)のおかしさを本からピックアップしてみます。鏡のように私たち自身を見ることができます。

大刷新の由来

 ・・・大刷新の前に、今では江戸時代の次の『東京時代』と呼んでいる華やかな時代があったこと。そして、途上国の人口爆発による世界的な食糧不足で、工業第一で農業を軽視していた日本も深刻な食糧危機に陥ったことは、小学校で詳しく教わった。世界的な工業国だった時代なら、金にものをいわせて世界中から食料をかき集めることもできたが、工業生産が行き詰まってくると、その手も使えなくなった。以来、二度と過去のあやまちを繰り返さないように生活全体を見直しながら、自給自足のできる今のような農業社会を作りあげたおかげで食べ物に不自由しなくなった。

 「なんでも輸入しているんだから主食の米ばっかり例外にする理由はないさ」と言ってるうちに金も不足、大事な食料を輸出するなどまっぴらごめんの食糧危機到来。あ〜〜未来の日本人は食料を求めて世界へ物乞いに行くのでしょうか?まるで戦争中の疎開みたいですね。

学校封建制

 東京時代の日本で重要だったのは、大学で何を学んだかという内容ではなくて、出身大学の名前だった。(本当の)江戸時代の日本は、生まれた家の格によって人間の格も決まる封建制度だったが、東京時代には出身大学の格式によって決まるようになっていた。家の格は自分で選べないが、大学は自分で選べることが進歩といえば進歩だったから、出身大学の名前によって人間の格が決まる学校封建制度は百年以上も続いたが、東京時代の終わりとともに完全に過去の霞のなかに消え去った。しかし、学校好きの国民の血は少しも変わっていない。

 ほんとそうですね。ひがみもあるかも知れませんが、「学歴」にも「賞味期限」を設定してしかるべきじゃないでしょうか?

子供の頃から成人病

 小学校のうちから猛勉強させられて、学校が終わると塾へ行く。十くらいの子供が寝るのは夜中の十二時、一時というのが普通だったそうだ。だから、二十世紀の末頃は、十歳になればそろそろ体が中年になりはじめた。二十歳になれば、見かけだけは青年でも、十人のうち六人までは、立派な成人病の患者で、高血圧だ肥満だ、糖尿病だ神経症だって、大変だったんだよ。

 まるで学校ブロイラーですね。これじゃ。

政治は恐ろしい

 一流の学歴の上にあぐらをかいて人民の上に君臨していた軍人や官僚のおもわくに、一生の間振り回され続けた、曾祖父母やや祖父母の世代の人々の苦労を、若者たちは黙って聞いた。「政治は本当に恐ろしい」老人はしみじみ言った。

 「日本のように小さな国は、世界の檜舞台に立つなどという大それたことを考えず、ひっそりと生きるべきなのだ。それなのに、誰か偉い人が、西洋に負けない軍事大国になろうなどと思いつけば、桃園村の青年までが縁もゆかりもない遠い外国へ連れて行かれて恨みもつらみもない外国の青年と殺し合いをさせられる。

 ・・・>上に立つ偉い人などいなくても、我々日本人は立派にやっていけることがわかったのは、大きな収穫だよ。いや、江戸時代までの日本の百姓も、形の上では領主に従属していても、年貢を納める以外ではしっかりした自治をしていたから、実際は先祖返りしただけかもしれない」

 江戸時代は本当に小さく安上がりな政治体制だったようです。そのため多くの管理が民間に委ねられ、結果的に住民自治が進化し社会の安定や犯罪の予防にもつながったようです。

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 私は3.11以降、自然と上手に共存していた江戸時代についての関心が高まりました。

 そして江戸時代を知れば知るほど、未来社会のお手本のように思えてきています。

 江戸時代は当時のヨーロッパ諸国と比べてもその衛生、治安、文化など最高レベルの社会であったようです。

 さらに二百六十年も平和を維持した貴重な時代です。

 私たちは、あまりにも幕末のヒーローや明治以降の富国強兵国家への邁進だけに関心を持ちすぎてはいないでしょうか?

参考(江戸時代関連)
 江戸の洗濯にびっくり!
 うつくしく、やさしく、おろかなり
 マクロな民主主義
 時間が伸び縮みした社会
 暗い灯りと集中力
 戦国時代はカカア天下
 パソコン拒絶社長
 ヘビ年に思う
 江戸のアーティスト
 スーパーマンの涙 
 江戸のベンチャービジネス
 江戸へのタイムトラベラー
 杉浦日向子の「ケータイ観」
 夏祭り、浴衣、江戸の町