「未来ケイサツ」再び

 トムクルーズ主演の「マイノリティ・リポート」という映画がありました。未来の犯罪を予知して取り締まるというストーリーでした。本当にあったらどういう世界になるか、映画とは別なストーリーを考えてみました。
 原作者フィリップ・K・ディックは薬物中毒でもあったので彼の物語はすべてブッ飛んでいます。

 アメリカ人好みなんでしょうか?「ブレードランナー」や「トータルリコール」はじめ多くの作品が映画化されています。

 私はけっこう原作を読んでいますが、映画とはかなりストーリーが異なります。(映画の方がいいような気がします)

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 さて、過去の自分写真を見て何か感じることがあるように、過去の自分ブログを見てハッとさせられることがあります。

 大飯原発運転差し止め判決がきっかけで、以前書いた「未来ケイサツ」を読み直してみました。

 もう一度「未来に対する罪」というものについて考えてみたいと思い再掲しました。

ノボ・アーカイブス

2012.6.24 「未来ケイサツ」

 2022年、「未来ケイサツ」がついに発足した。

 2011年以来、ドイツを中心にして世界中の良心的な学者が連携し、ある研究を進めていた。

 その研究とは「未来(の犯罪)を高い精度で予測できるシステム」である。

 その成果が「未来ケイサツ」として実現し、各国民衆の圧倒的な支持により、正規の国連機関として発足したのだ。

 システムは「バタフライ・シミュレーター」と命名された。

 今ここで蝶々が羽ばたくと、気流に変化が生じ、廻り回って南半球に嵐を引き起こすという「バタフライ・エフェクト」からの発想だった。

 →バタフライ・エフェクト

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 「バタフライ・シミュレーター」は何をするのか?

 それは、今行っている経済活動が未来にどのような影響を及ぼすかを精確に予測できるシステムである。

 その悪影響が大きい場合、「未来ケイサツ」は対象となる経済活動を即時に停止させる。

 それでも継続した場合は、未来の被害に相応する罰則を与えるのだ。

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 このシステムには天文学的な計算能力を持つ計算機が必要であったが、20世紀以来変わらぬデジタル論理では対応できなかった。

 しかし、日系二世の天才科学者「アルベルト・水川博士」の超アナログ原理宇宙式の構築により、研究は一気に進んだ。

 それは、第二次世界大戦において、中性子とウランによる核分裂反応が発見されてから、たったの六年で原爆が開発されたときのような、あっというまの実用化だった。

 ウズラの卵くらいの超アナログ素子(生命体といってもいいような特徴をもっていた)がたった1個で、2012年当時の世界最高速デジタル式スーパーコンピューターの百万倍の性能を発揮できたのだ!

 科学者たちは、「ウズラの卵」が数十個入ったその計算機を、冗談で「鳥の巣」と呼んでいた。

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 「未来ケイサツ」は特殊な存在であった。

 全世界の民衆の支持により、国連機関となった経緯がその理由だ。

 政治や経済界の強い圧力に左右されることがないようにと、革命に近い民衆運動の末に特殊な指揮系統が具体化した。

 実現に大いに寄与したシステムがある。

 「鳥の巣」と並行して、科学者たちは経済原理に拠らないSNS「地球市民フォーラム」というシステムも実用化した。

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 これもまた驚異的なシステムであった。

 超アナログ原理は、人間の脳波によるコミュニケーションをも可能にしたのだった。

 人々は、このシステムに参加するときパソコンや入力装置であるキーボードとかは必要としない。

 かわりに、まるでゴルフボールのようなツールを握りしめるだけでいいのだ。

 言語も年齢も性別も関係なく、人々は脳波によって様々なコミュニケーションが可能になった。

 このシステムを利用して、「未来ケイサツ」の向かうべき対象が決定されるのだった。

 脳波を使ったことによるメリットは、コミュニケーションの中に「誠実さ」「真摯さ」という道徳的要素が加味されたことだった。

 「詭弁」に対しては、従来のとても困難な論理的な排除のみならず、脳波でも排除できるようになり、口舌の輩は「科学的な手段」により重要な討議から外されることとなった。

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 人間の「幸福」というものの基本要素には「未来の可能性」があるに違いない。

 そして、それを成り立たせるためには「不可知の未来」という、ある意味「人間能力の限界」を必要としていた。

 もし「未来ケイサツ」のシステム「バタフライ・シミュレーター」がむやみに使われれば、それは逆に「人間の未来への希望」を損なうことにもつながる怖れがあった。

 13歳以上の人間すべてが参加する「地球市民フォーラム」において、その6割以上の人々が「誠実に」「真摯に」「不安を感じている」事柄だけに、このシステムが使用される。そのことが厳密に定められた。

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 そして2022年、「バタフライ・シミュレーター」最初の未来(犯罪)予測は。。。

 やはり「原子力発電」であった。

 「バタフライ・シミュレーター」はその未来予測を30年後、50年後、100年後(ここまでが予測の限界であった)、それぞれ数字と映像で人々に知らせた。「地球市民フォーラム」の脳波によるコミュニケーションで。まだ見ぬ未来を。

 それぞれの未来予測は、懐中電灯のライトが遠くを照らすほど光束が拡がるように、30年後の未来の映像はかなり鮮明だったが百年後の未来の映像はかなりぼやけていた。

 さらに何種類かの映像が交互に現れた。未来には必ずいくつかの可能性があるのだ。

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 未来を見たこの日から一か月後、「未来ケイサツ」は国連から全世界へ出動した。

 そして「即時原発停止」を各国政界、経済界に強く求めた。

 しかし、「現在の利害」「今期の業績」しか判断基準がない経済界、当時の株式会社化した「コッカ」の中枢を握る性能高き人々の執念はすさまじかった。

 あらゆる手段で「原発維持」にエネルギーを傾けた。第二国連設立まで行った。

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 ついに「未来ケイサツ」が強制権を発動した。

 「未来に対する罪」である。

 罪状の内容をみてみよう。

 チェルノブイリ、フクシマ、そして未来の原発事故(原子力艦船事故も含む)による放射能および放射性廃棄物による人類の被害だ。

 そこには、50年後までに、およそ1億人に対して平均5年の寿命の減少、1千万人の死産、5百万人の奇形が生じるという予測であった。その可能性が85%と計算されていた。

 原発維持をあきらめなかった人々には「無期懲役」が求刑された。

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 この年から、この「未来ケイサツ」支持派と反対派の熾烈な戦いが始まった。

 3年後、「未来ケイサツ」は勝利した。

 なぜか?

 SNS「地球市民フォーラム」には、支持派の妻や子供達も入っていた。彼らが夫、父親を説得したのだった。

 エリートであった父親たちは、その後生気を失われたゾンビのようだった。

 自分の性能をどこまでも発揮し、競争に勝つこと、だれよりも裕福な生活をすること、それらを実現できる自分、というプライドを失ってしまったからだ。

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 それからさらに3年後のある日。。。

 これは日本での光景だった。

 かつて、エリートであった人々は考えを変え、さらに保釈され、若者に交じって海や山で働いている。

 海や山には、3年前には想像もできなかった、自然エネルギーを利用した産業や種々の発明品があふれ、かつてゴーストタウンになっていた田舎の町や村は、自然を活かしたすばらしい地域として再生している。

 なによりもすばらしいのは、タオルを首に巻き日焼けした父親のそばで、一緒におにぎりをほおばる娘や息子、妻らが夕日を眺めている光景だった。

 父は心の中でつぶやいていた。

 「いったい俺は何をしてきたのだろう。この子たち、さらに孫たち、ひ孫たちが継承していく未来について何も考えてこなかったとは。。。」

 やがて空も暗くなり、見上げた天には星々がかつてよりその数と光をましているように感じられた。

 この「未来ケイサツ」を書こうと思ったのは、ある経済評論家のこんな発言がきっかけでした。

 「原発事故が大変だと言うがそんなことはない。まだ誰も死んでない

 上の発言を言い換えると、こうなるのではないでしょうか?

 「今死んでなければそれでいい。原発事故が原因で未来にどれだけ人が死ぬかはだれもわからない。わからないことについては免責。だから原発事故よりこんにゃくゼリーの方がかえってあぶないってわけさ」

 こういった言動が何の疑問もなく発せられ、聞く方も「なるほど」と思ったりするのが今の日本です。

 話す方もうなずく方も、私にはどうしてもおかしいと思えるのですが?