ノボノボ童話集「ストーブ隊長」

 東京オリンピックの頃、私は小学校5年生でした。この頃は字が読めない子もいっしょの教室でした。なんて貴重な時代を過ごせたのだろうと今になって強く思います。そのころの実話を(「もと童」向け)童話として書いてみました。

ノボノボ童話集

ストーブ隊長

 小学校四年生までのゆきおちゃんは、

 学校があまり楽しくなかった。

 それが五年生、六年生になってバラ色になった。
 
 担任の先生がすばらしい先生だったからだ。

・・・・・・・・

 ゆきおちゃんは年中服を着替えない。

 いつも竈(かまど)のすすけた臭いがする。

 髪も洗わない。

 遠い南の島の住人みたいな顔をしていて、

 笑顔がとても人なつっこい。

・・・・・・・・

 字が読めないゆきおちゃんは、

 男の子たちのいじられ役だった。

 女の子たちのほうは、

 そんなゆきおちゃんを、

 悪童どもからかばっていた。

・・・・・・・・

 ゆきおちゃんの転機は

 亜炭ストーブの季節とともに訪れた。

 担任の先生はクラスのみなにこう宣言した。

 「今日からゆきおくんをストーブ隊長に任命する」

 教室にある亜炭ストーブの火力は、

 ゆきおちゃんに委ねられることになったのだ。

・・・・・・・・

 ゆきおちゃんの席はストーブのすぐそば。

 授業中でも関係なく亜炭をくべている。

 先生はときどき、ゆきおちゃんに指令を出す。

 「ゆきお、だれかさぼってないか見てきてくれ」

 先生の絶大なる信頼を得て、

 まるで保安官助手のように、

 教室の中をパトロールするゆきおちゃん。

 彼をからかう悪童はもういなくなった。

・・・・・・・・

 あれから何十年たっても、

 かつての同級生たちは会うたびに、

 この懐かしい話で盛り上がるのだった。

 ゆきおちゃんは皆の心にひとしく、

 大切な写真を残してくれたようだ。

ノボノボ童話集
 →「無敵の鎧」
 →「妖怪ワケモン」 
 →「森の言葉」
 →「究極の薬」
 →「アキレスと亀」
 →「宇宙への井戸」
 →「思いがけない幸せ」
 →「本屋の秘密」
 →「美しき誤解」
 →「サンタの過去」
 →「車のない未来」
 →「恐怖のミイラ」
 →「一番暖かい服」
 →「沈黙は金」
 →「素晴らしき嘘」
 →「未来から来た花嫁」
 →「未来のお化粧」
 →「幸せのタイミング」
 →「リンゴ箱のもみ殻」