ショートSF「素晴らしき新人類」

 現代の慢性病はネット中毒とアレルギーです。私も五十を過ぎてから花粉症となり、仕事も個人生活もネットに繋がれ半オタクのごときです。わが孫たちもアレルギーだらけ。これらを人類進化の過程として肯定的に考えてみたらどうなのかな?という一篇です。

ノボノボ童話集

素晴らしき新人類

人類は今、進化の過渡期を超えようとしている。

私たちは進化に洗練を期待しがちだが、

実はグロテスクに見えることのほうが多い。

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十数年前から新人類の予兆が頻繁に現れてきた。

花粉症、食物アレルギーが劇的に増加した。

逆に、食品添加物など化学物質への拒絶反応が激減した。

もしかしたら過剰な検査被爆やあの事故によって、

放射線への耐性も生じているかもしれない。

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若者が多い宴会では、刺身は御法度になりつつある。

グルメとは化学調味料の按配を評価することに変わった。

現代の花形はかつて「オタク」と呼ばれた人たちである。

社会性や自然に対する感受性などはあまり重要でなくなった。

昼夜問わず、風景の代わりに液晶画面を眺めることを好み、

主食はコンビニ電子レンジチーン食品となった。

性別の分類は、男性、女性の二分法から、

男性、中性、女性の三分法に変わった。

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過渡期にこれらを異常に感じた人は多い。

しかし、やはりこれは進化である。

現代の環境にしっかり適応しているのであるから。

類人猿が四足歩行から二足歩行に切り替えたとき、

恐竜の子孫が小さい鳥となって空を飛んだとき、

両生類が陸だけで生活するようになったとき、

これらに比べればその変化はあまりに些細すぎて、

はたして進化とよぶべきか悩むほどだが。

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新人類は未来への希望でもある。

マグロをはじめ魚介類の乱獲は不要となり、

獣肉も化学合成品で代用できるようになった。

人口過剰こそ地球の根本的大問題なのだが、

性ホルモンの減少により、

悲惨な戦争などなくても人口抑制できることになった。

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未来の社会は「マトリックス」の世界になる。

人工知能が人類の能力を超えようとしている今、

人工知能と人間が合体していく進化の序章はすでに始まっている。

いわゆるオタクは液晶画面を見ているのではない。

電脳世界に全人生を同期させているのだ。

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ドラッグは電脳新世界との化学的インターフェースである。

それが違法とされ、犯人が検挙されるのは、

実はハッカーと同様、国家的機密プロジェクトの調査であり、

新世界先遣隊のリクルートであるからなのだ。

もうSFというジャンルは成り立たない世界なのだ。

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まもなくこのようなニュースが世間を驚かすことだろう。

「皮膚に黒い光沢を生じる人が若年層に増えてきた」

昆虫類を連想するならそれは正しい。

環境の変化に耐える外皮、食性の革命的変化、

ネットという電脳神経網を共有する新たな生物社会、

それらへの移行の幕開けである。

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なんと人類は素晴らしき適応能力を備えた生物であろう。

たとえグロテスクに見えようと合理的な進化であるに違いない。

創造の神は偉大なり!地球を救う配慮をなされている。

しかし還暦を過ぎた私は、きっと旧人類のまま死ねるであろう。

個人的には、これ以上の幸せはないと感じている。

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