良いムダと悪いムダ

 「ムダ」というのは人間にとってとても大事なことと思うんです。でもどんな「ムダ」でもよいというわけではありません。
 リーマンショックの頃、私の会社もだいぶ打撃を受けました。

 そのとき私は、あれこれ原点に立ち返り考え直してみました。

 そして、みんなに話したことはこんなことでした。

 あれから数年経った今、「間違ってなかった!」という手ごたえを少しづつ感じ始めています。


ムダには二つある

 「ムリ・ムラ・ムダ」は「三ム」と呼ばれ、仕事の敵とされています。

  しかし、最近私は「ムダ」に関しては良いムダと悪いムダの二種類があると思い始めています。

  良いムダを積極的に増やすために悪いムダを積極的に取り除こう、というのが本来の仕事に大事なことだと思うのです。


違いはどこにある

 悪いムダとは何か?

 それはすでに決まっていること、確立していることに対するムダ、言い換えれば定型・定常的な仕事に対するムダのことです。

 良いムダとは何か?

 それは、未知の事柄に対するムダ、言い換えれば改善や独創のために必要なムダのことです。


本来の仕事とは創造である

 本来の仕事とは何でしょうか?

 ロボットのように同じ作業を繰り返すことでしょうか、それとも何かを創造していくことでしょうか。

 様々な考え方はあると思いますが、私は経営理念でこのように定義しています。

 「互いが関係する社会の中で
  私たちの仕事の最終目的は社会への貢献です
  社会への貢献とは
  人々の幸福につながる価値の創造と増大です」

 人間はものを創り続ける本性を持った生き物です。

 子供を産むのも、ロケットを作るのも、おいしい料理を作るのも広義にとらえればみんな創造です。

 もし創造という行為が仕事に欠落しているなら、私たちはその本性を満たすことができず不幸といえるのではないでしょうか。


ビジネスの錯覚

 目的のために手段があり、その最小コスト化のために効率化があります。

 ところが今や「効率化」が自己目的化してしまい、本来の目的を吟味することのない社会となりつつあります。

 だれもが、いつまでも、何に対しても「効率化」をもとめ、時間の節約ばかりを考えています。

 いったい、本当は何のために時間を節約すべきなのでしょう?

 だれもがわからなくなっています。

 だからこんな言葉が金科玉条のように受け取られてしまいます。

 「時は金なり」「経営とはスピード」「会議は1時間で終わらせろ」・・・

 未知のものが一時間で解決できるわけがありません。

 その時間がムダというなら独創はどのようにして生み出せるのでしょうか。


良いムダは人を育てる

 仕事で大切な「独創」を生みだすには多くの時間が必要ですし、皆で話し合うとさらに多くの時間や面倒がかかることでしょう。

 しかし皆の頭でもむことで一人一人の能力も伸びていきます。

 これが大事なことです。

 結果だけを重要と考える価値観では、これは「悪いムダ」ととらえられるでしょう。

 しかし、過程を重要ととらえる価値観もあります。それは独創を生み出せる人づくりこそ大事と考える価値観です。

 それは「自分たちのために仕事がある、あらゆる課題は自分たちが成長するための教材である」という考えです。

 その考えにおいてはダベリングのような会議も「良いムダ」となるでしょう。


良いムダを取り戻そう

 人が資産である会社にとっては、良いムダを増やして皆の企画力、独創力を育むことが大事です。

 しかし、日々の糧を得ることが大前提です。

 もう一度、最初の言葉を繰り返すことになりますが、「良いムダを増やすために悪いムダを取り除く」ということが基本になります。

 具体的には、未知のこと、大きいことを考えたり話し合う時間をいっぱいとるために他をできるだけ前倒ししていこう、効率化していこうという行動です。

 たとえば、会議で話し合うことが10あれば、前日までに8は前倒しで処理しておいて、2に思い切り時間を使おうということです。

 2になったから、時間も2/10にするというのは「効率化」が自己目的化していることになり本末転倒です。


もやもやに耐える

 独創くらい難しく、かつ楽しいものはありません。

 頭の中で試行錯誤やら堂々巡りやらの繰り返しです。

 でもこのもやもやを繰り返すことで、あるときふっと霧が晴れて独創が生じると思うのです。

 それまでのもやもやに耐えぬく力、それを大切と思う気持ち、悪いムダと思わない気持ち、この覚悟が大事です。


深く考える力を養う

 もやもやは悪いことではありません。独創の前段階として必ず通過する過程です。

 その過程を一人一人が経験し、悩むことにこそ価値があるのだと思ってください。

 それは一人一人に、より良く生きるために必要な「深く考える力」を与えてくれるでしょう。

 誰かがすでに考えたことに「深く考える力」はいりません。

 それは「効率的に考える力=いわゆる頭の良さ」で十分です。

 「深く考える力」とは未知の事柄の解決や独創に必要な、たくましき「本当の頭脳力=人間力」です。

 そして一人一人の「深く考える力」の成長が「独創的な会社」につながっていくと思うのです。


参考
 「ムリ・ムラ・ムダ」新論
 仕事の目的は二つある
 サッカーのように仕事をしよう
 さよならノルマ
 自分の決算書をつくる
 幸せの決算書
 20世紀最大の損失とは