倉本聰『ヒトに問う』より

 「北の国から」の倉本聰さんの最新刊『ヒトに問う』を読みました。渾身の思いを一行一行に感じ、夢中のうちに読み終わりました。

「その10 ヒトへの回帰」より

 このシリーズのタイトルを「人に問う」とせず「ヒトに問う」とした。何故人でなくヒトなのかと、何人もの人に質問され、その都度僕はこう答えてきた。

 この間いを僕は、地位とか立場とか身分とかしがらみとか、個人の事情とか組織の事情とか、貧富とか思想とか職業とか利害とか、更に云うなら民族とか国家とか、そうしたあらゆる束縛を排除した、地球の上の何億という命の中の微小な存在としての人類というヒト。

 その一人としての「あなた」に対して真剣に考えて欲しいと思い、ヒトという片仮名を使ったのです、と。

 僕らは偉くなりすぎてしまった。

 3.11の原発事故から現在までの政治や社会、私たちの意識、それらの変化について、痛切な危機感をもって書かれています。

 その迫力に圧倒されます。

 「ヒトはいったい何をしでかしているのだろう!」

 ここでは、倉本聰さんが文中に引用した興味あるデータを紹介したいと思います。

 私にとっても実に衝撃的なデータでした。

「その1 進む「覚悟」戻る「覚悟」より

 「覚悟」という言葉を今考える。

 我々はこの不幸な大事故後の人間生活のあり方について、大きな岐路に立たされている。

 一つの道は、これまで通り、経済優先の便利にしてリッチな社会を望む道である。その場合これまでの夜の光量、スピード、奔放なエネルギーの使用を求めることになるから、現状では原発に頼らざるを得ない。その場合再び今回同様の、もしかしたらそれ以上の、想定外の事故に遭遇する可能性がある。 その時に対する「覚悟」があるか。

 今一つの道は今を反省し、現在享受している便利さを捨てて、多少過去へと戻る道である。この場合、今の経済は明らかに疲弊し、日本は世界での位置を下げる。そうしたことを認識した上で今ある便利さを、捨てる「覚悟」 があるか。

 以上二つの選択の道を宮津市の講演会場で問うてみた。

 その日の講演会場は800の客席が満員。1階が一般市民。2階が全て高校生だった。まず一般市民にのみ問うてみた。

 何と90%が、過去へ戻る道。

 一寸驚いた。

 次に高校生たちに問うてみた。一般市民が首をめぐらし、2階席を仰ぎ見た。

 70%が、今の便利を続ける道。30%が便利を捨てる道。静かなどよめきが一般市民から起きた。僕もそれ以上に衝撃を受けた。既に先の永くない大人たちが、昔へ戻る道を選び、これからの世を担う若者の層が原発の危険のある道を選んでいる。

 だが考えてみると当然なのかもしれない。若者たちには生まれた時から恵まれた暮らしと便利があり、それのない生活は考えられないのだ。

 全国民に僕はこの二者択一の答を聞きたい。今こそマスコミはこうしたアンケートをとるべきだと思う。

(2011年夏)

 同じようなデータがもうひとつ書いてありました。

「その10 ヒトへの回帰」より

 かつて富良野塾で、40人の塾生に、生活必需品(今、生活に欠かせないもの)を列挙させたら、

 1位 水
 2位 火
 3位 ナイフ
 4位 食料

 という結果が出た。ところがこれを渋谷で遊ぶ同世代の若者から挙げさせたところ、

 1位 金
 2位 ケイタイ
 3位 テレビ
 4位 車

 というかけはなれた回答が返って来た。

 ヒトが生きる為には何が必要か、根本の思考がもはや若者には出来なくなっている。

(2013年秋)

 もし、わが孫が将来(渋谷の若者と)同じような回答をしたならば。。。

 私はきっと、この世にも自分にも絶望してしまうことでしょう。

 いったい、私(私たち)は何が出来るのか?何をすべきなのか?

 実に考えさせられます。。。


(本作にある倉本聰さん自筆の点描画)