江戸時代の人たちはとてもよく笑ったそうな。外国から来た宣教師が驚きを込めて本に書いているそうです。
最近のわがブログに杉浦日向子さんがちょこちょこっと顔を出しています。
懐かしくなりまして、ここ二晩、彼女の『一日江戸人』という本と、漫画『百日紅(さるすべり)』を寝床で読んでいます。
江戸時代を題材とした本をあれこれ読んでいますと、ものものしいテレビや映画の時代劇とは正反対の、のどかな庶民社会が目に浮かんできます。
今なら「平和ボケ!」といってなじられるんではないでしょうか?
そう言われたって、その頃のお江戸の人々は困りますよね。
きっとこんなふうに問うんじゃないですか。
「じゃどうすりゃいいのさ?無理やり敵をこさらえて、始終しかめっ面していりゃいいのかい?」
「そもそも強面のおまえさんだって、平和でニコニコ暮らせる社会が望みじゃないのかい?」
「それが実現していて何か問題でも?」
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日向子さんの『一日江戸人』から、江戸人の「ホビー」の話をいくつか。
江戸の雰囲気が伝わってきますよ。
まずは色っぽい「音曲」から
さて、正道の方はこのくらいにして、いかにも江戸らしいと思われる道楽を見てみましょう。
道楽といえば、最初に出てくるのが、「音曲(おんぎょく)」 です。
落語でもおなじみですが、横丁に常磐津(ときわず)の師匠が越して来た。しかも妙齢の女師匠で独り身だ、さあ習いに行こう。
というのが一番多く、これは唄や三味線を習うのじゃなく、師匠を口説きに月謝を払うんです。それだから、師匠に決まった旦那ができると、弟子は潮が引くようにいなくなったものでした。
さて、お次は?
今あるものは、江戸の昔にも形を変えてあったようです。
そりゃ〜同じ血筋のご先祖様ですからね〜。当たり前と言えば当たり前。
江戸の昔からお笑い物まね系は人気者なんだな〜。
江戸の形態カラオケ
ついで、昨今のカラオケのように流行ったのが「声色(こわいろ)」。
これは、いわゆるモノマネなのですが、「芝居(歌舞伎)」が江戸人のテレビであり、芸能界であったので、その通俗性はカラオケ以上とも言えました。
師匠は「名場面・名セリフ」を手とり足とり指南しました。
<しがねぇ恋の情が仇、命の綱の切れたのを…>てなふうにやるわけですが、上級者は、菊五郎の当たり役を団十郎ふうにやるとか、声は八百蔵で、しこなしが半四郎とかいったこともやったそうです。
「声色」が達者なら、町内の人気者間違いなしでした。
江戸は参勤交代のせいもあって、男が女よりかなり多い社会だったようです。
そのせいで江戸は日本史上最高の「女性上位社会」だったようです。
ですから極楽鳥のごとく、男は色気、侠気を磨いて女性に気に入られようと必死だったようです。
モテ男養成塾
また、「あくび指南」のように、珍奇な師匠も実際おりました。
「所作指南」といって、身のこなしを教えるのです。
たとえば、カツコイイ煙草の吸い方、ソバの食い方といったものです。
煙草では、帯にはさんだ煙草入れを取り出して、葉をつめて、吸ってはたく、までの一連の動作を指導し、けっこう人気があったそうです。
さてと、次に紹介するのは俳句道場にあらずダジャレ道場です。
江戸っ子の啖呵とか、口上とか切り返しとか今でも健在ですよね。その基礎教育みたいなもんでしょうか?
寅さんがもし江戸時代に生きていたら大師匠になれたことでしょう。
大江戸ダジャレ道場
それ以上にバカバカしいのが、「秀句指南」です。秀句とはシャレのことです。
「鯉の滝上り」を「仔犬竹登り」とか、「猫に小判」を「下戸に御飯」とか、「何か用?」と聞けば「何か用か九日十日」と答えるとか、「ありがたいねぇ」と相手が言えば「蟻が鯛なら芋虫ゃ鯨」と受けるという、そういうシャレを習うのです。
こんな役にもないことに金を払うのは、江戸ッ子なればこそといった感があります。
江戸時代には「御犬様」の時代もありました。
そのおかげで犬もペットとして扱われるようになったらしいのですが、いくら何でも「ノミ」までペットとは!
江戸人ってのはおもしろい人たちだらけというか、そういう連中こそ一目置かれたいい時代?だったようですね。
ノミまでペット
また、今と同じく、ペット道楽もありました。猫、犬、小鳥、虫と多種多様で、そのいずれも「物合わせ」という品評会がありました。
なかでもおもしろいのはノミの品評会で、拡大レンズを使って、ノミの色、艶、形、さらにジャンプカを競うのですが、大の男たちが、しかつめらしく寄り合って、ノミを見比べるのは、想像するだけでおかしいです。
次は、今なら切手収集みたいなもんでしょうか?
ラベルコレクター
それから収集の道楽も、もちろんさかんでした。
ポピュラーなのはラベルです。
菓子、薬、化粧品などのラベルをはがしてアルバムに仕立てました。
幕末に来日した欧米人が、洋酒のラベルが中身の酒よりも高価に売れると驚いたのは、このホビーのためです。
さて、最後を飾る道楽、趣味はといえば「ミクロの江戸圈?」
粋でミクロな江戸細工
おしまいに、江戸の粋を集めた趣味の世界、ミニチュアについてふれたく思います。
江戸では指先に乗るような家財道具を掃える細工職人の技術が大変に珍重され、名工の物になると本物の箪笥の十倍も高価でした。これは純粋に大人のホビーで、男女ともに愛玩しました。
戦後亡くなった最後の江戸細工師‥小林礫斎(れきさい)の作品群には、ため息の出るようなミクロの美が結晶しています。
江戸人のホビーに共通する余裕と豊かさ、それはいったいどこから来るのか、ほんとうに不思議です。
というわけで、江戸時代に戻っても日本人なら何にも心配いりませ〜〜ん、たとえどんな道楽者でも大丈夫。
と、日向子さんが大江戸ツアーガイドをしてくれたというわけです。
何かにつけて大和民族の魂とか誇りとかいう人が最近まためだちます。
それはいいですけど、「江戸時代」だって「庶民のくらし」だって私たちの「魂」のルーツですからね。
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参考
(杉浦日向子さん関連)
憩う言葉
粋に暮らす言葉
うつくしく、やさしく、おろかなり
江戸のアーティスト
スーパーマンの涙
江戸のベンチャービジネス
江戸へのタイムトラベラー
杉浦日向子の「ケータイ観」
夏祭り、浴衣、江戸の町